【民法】 債権者取消権における虚偽表示の抗弁? ――二重効について
今日は、質問を受けたので、債権者取消権と虚偽表示の関係について…… と言うか二重効の問題について一言。
■問題
G
|
↓
S ―→ M
Sは、時価1億円の不動産・甲を有していたが、強制執行を免れるため、Mと通謀して、 甲の登記を虚偽の売買契約を理由としてMのもとに移転した。
つまり、SM間の売買契約は虚偽表示で無効である(94条1項)。
その後、この事実に気付いたSの債権者Gは、Mを相手方として債権者取消権(424条1項)を行使した。
すると、Mは次のような主張をした。
即ち、 「SM間の売買契約は虚偽表示であり無効である。従って、債権者取消権で『取り消す』ということはありえない」。
Mの主張の当否について述べよ。
■解説
この問題を見て、「むむむ、聞いたことないぞ」と感じられた方もおられるかもしれない。
しかし、この問題は、基本的な論点が少し形を変えただけのものである。
即ち、前述したように、この問題は二重効の一場面である。
基本的な知識を正確に理解し、かつ、問題の本質を見抜くことができれば、すぐに気付くはずである。
二重効についてご存じてあるにも拘わらず、二重効に気付けなかった方は、問題の解き方(法的思考体系)か勉強の仕方に若干、問題があるかもしれない (大袈裟過ぎる!? )。
閑話休題。本論に戻る。
結論から言えば、現在の多数説は二重効自体は肯定する。
ちなみに、古くは我妻先生、於保先生が二重効を肯定されていた(例えば、上記設問との関係で言えば、於保不二雄『債権総論〔新版〕』〔有斐閣、1972年〕 181頁以下参照)。
そして、現在の多数説は次のように主張する。
確かに、「法律行為の有効とか無効とかいう概念を、 事物それ自体に自然科学的な属性のごとくそなわった客観的・固定的・実在的なものであると考えれば、 無効な行為を取消すということは論理上ありうべからざることであり、有効な行為を前提としてのみ取消はありうる」ということになる (幾代通『民法総則〔第二版〕』〔青林書院、1984年〕 448頁)。
しかし、無効や、取消しという概念は、 「一定の事実に対する法的評価にすぎず、 物理的意味での存否とは異なる」(佐久間毅 『民法の基礎1 総則〔第2版〕』〔有斐閣、2005年〕163頁)。
つまり、無効や取消しという概念は、「法律行為 (意思表示)の効力を否認するという法的評価をなす場合の1つの論理構成のための概念」に過ぎない以上、 二重効=「救済の自由選択」を肯定して構わないと考えられるのである(幾代・前掲書449頁)。
ちなみに、裁判実務もこの考え方に立っていると評価してほぼ間違いないと思われる。
尚、このように、実務・学説は二重効自体は肯定するものの、全ての二重効を肯定している訳ではない。
例えば、錯誤(95条)と詐欺 (96条1項)の二重効の場合、 詐欺が錯誤の特別規定に該当するので、二重効は否定される、という見解が有力に主張されている(例えば、鈴木禄弥『民法総則講義 二訂版』〔創文社、2003年〕175頁以下)。
以上のような考え方を前提とすると、冒頭の問題に対する答えとしては、Mの主張は失当である、 ということになる。
ちなみに、古い判例は、やや特殊な見解を示している(大判昭和6年9月16日民集10巻806頁。今回の事案とはやや異なるが)。
そのため、冒頭の問題について、現在の最高裁がどのように考えているかは必ずしも明らかではないように思われる。
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