【民法】 『民法の基礎2 物権』について
今日は、佐久間毅先生の『民法の基礎2 物権』について、簡単な書評を。
先月発売されたばかりの本書の特徴を一言で言えば、「丁寧な教科書 (おまけ付き)」である。
「丁寧」と評価した理由は、その記述にある。
即ち、本書では、制度や定義について1つ1つ正確な記述が為されているだけでなく、各論点における論理の流れも1つ1つ、 煩を厭わず丁寧に説明されている。
確かに、この記述の仕方については、冗長でくどい、という評価も可能であるが、 初学者を念頭に置いた書籍としては適切であると思われる。
何故ならば、「くどい」という感想は、その記述――および、そこに含まれる知識や論理―― を既に一定程度自分で理解して初めて生じるものだからである。
つまり、「くどい」と思わせることができるということは、その記述内容について理解させている、 ということを意味すると考えられるのである。
しかも、物権は、民法の中でもかなり論理が複雑な箇所であり、挫折する初学者も少なくない分野である(その意味で、刑法総論に似ている)。
とすれば、丁寧な文章を繰りかえすことは、初学者に複数の「理解の機会」を与えることになり、 むしろ教科書としては優れているという評価が可能であろう。
また、法律解釈においては正確な論理展開が何よりも大切である。
そして、この「正確な論理解釈」は論文集や体系書を読んでも養われにくい。
むしろ、基礎的な事項について、深く正確に理解することによって初めて養われるものであろう。
ところが、この「深く正確に理解する」ということが案外難しい。
皆さんご存知のように、基礎的な問題はすらすらと答えることができるのに、 少し内容をひねった応用的な問題になると途端に正答率が低下するのは、法律解釈学に限らず、学問一般に見られる現象である。
では、どうすれば良いのか?
この問題点を解消する方法には幾つかのものがあるが、代表的な方法としては、 「何回も演習する」というものがある。
様々な視点・条件から構成された異なった問題を繰りかえせば、自然と当該事項について多面的な洞察をすることになり、 理解が深まるのである。例えば、数学教育ではこの方法がよく用いられる。
翻って考えるに、法律解釈でもこの方法は有効ではないかと考えられる。
そして、本書では各論点毎にたくさんの事例問題が記載されており、その問題に対して1つ1つ、先生が解説を加えられている。
従って、本書を読み進めて行けば、自動的にたくさんの問題に当たることになるし、そのそれぞれについて先生の解説を繰り返し―― 先程の言葉を用いれば「くどいくらい」――読み解くことになる。
そして、このように正確な論理が展開された本書の文章を何回も何回も繰りかえせば、 自然と自分の中で正確な論理が展開できるようになるはずである。
また、本書の記述の特徴は、判例を重視するという点にもある。
これは、佐久間先生の研究姿勢の現れでもある。
先生は常々、「実社会の問題は裁判所で解決されている」、「判例を批判するのは簡単。それを整合的に説明できる人こそ、 本当に力のある学者」と仰っておられ、その言葉が本書でも実践されている。
即ち、本書では、まず、 判例法理がどのような論理で構成されているのかを説明されている。
学説から批判が多い論点であっても、判例が固まっている場合(例えば、「○○後の第三者」の処理方法)には、判例法理を正当化する論理を分析・ 構築し、それを分かりやすい丁寧な文章で説明されている。
他の書籍と違って、自説と判例法理が同一の場合は判例をそのまま用い、自説と判例が異なる場合には自説から批判を加える、 という姿勢は採用されていない(この姿勢が悪いという訳ではない。 この姿勢を採用するには、それなりの「覚悟」がいるからである)。
これは、法科大学院制度を前提とした新司法試験には特に適していると考えられる。
何故ならば、実務では判例こそ最大の力だからである。
また、試験に特化して考えても、判例の論理を用いて減点されることはほとんど無いはずである(個人的には絶対に無いと思うが)。
とすれば、まずは判例を正確に理解することが必要であり、その意味では本書の記述姿勢は優れていると考えられるる
ちなみに、「おまけ付き」と評価した理由は、『基礎』というタイトルを付しているが、ちゃっかり 「発展学習」、「補論」という項目があるからである(笑)。
具体的に言うと、「発展学習」では応用的な学説の紹介や要件事実論についての説明が為されている。
また、「補論」では先生の自説が展開されており、勉強が進んだ方や、院生・研究者の方にとっても刺激的な内容が開示されている。
但し、本書は「物権」のみを対象としたものであり、 担保物権は含まれていない。ご注意。
最後に、はしがきの1頁で先生が述べられていることを一部抜粋する。
「『民法の基礎』シリーズでは、初学者に基礎的な事柄を伝えることを第1の目的としつつ、 読者が少し高度な問題についても自ら取り組めるようになる手助けをすることも目指している」
そのために「はじめに具体例を挙げて問題の所在を明確にする。つぎに、 その問題に関して一般的な説明をする。そして最後に、その説明が具体例においてどのように展開されるのかについて一例を示す、 という構成をとった」。
また、「説明に際しては、なぜそのようになるのかという理由をかるべく付した」上で、 「基本的な問題とやや高度な問題・細かな問題を明確に分けて説明するようにした」。
……長々とした私の説明内容は、全て、この先生の文章に表れている気がするorz
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