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2006年11月 5日 (日)

【民法】 日常家事債務における110条類推適用について

今日は、いわゆる日常家事債務(761条)における110条類推適用ついて、 簡単に一言。

 

■条文

761条 【日常の家事に関する債務の連帯責任】
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、 これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

 

 

■定義

「民法761条にいう日常の家事に関する法律行為とは、 個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指す」(最判昭和44年12月18日民集23巻12号2476頁)。

 

 

■761条の法的性質

761条の法的性質については争いがあるが、判例・伝統的通説はいわゆる代理権説に立ち、 概ね次のように説明する(尚、学説などについては、例えば、潮見佳男『民法総則講義』〔有斐閣、2005年〕 395頁以下参照)。

 

「民法761条は……その明文上は、単に夫婦の日常の家事に関する法律行為の効果、 とくにその責任のみについて規定しているにすぎないけれども、同条は、その実質においては、さらに、右のような効果の生じる前提として、 夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解するのが相当である」 (前掲・最判昭和44年12月18日。青字、太字は引用者)。

 

この代理権説の考え方には異論があり(例えば、 北川先生や大村先生が主張する法定効果説など)、個人的にはそちらの見解の方が説得的だと考えるが、 本稿では代理権説を前提にする。

 

 

■問題の所在

ところで、761条の法的性質について代理権説の考え方を採用する場合、 夫婦の一方が日常家事債務とは言えないような行為をすることがある。

 

例えば、次のような場合である。

 

即ち、いわゆる中流階級の生活をしている家庭があったとする。

但し、妻は某財閥の娘であったため、 妻名義で数十億の資産があったとする(あくまで夫婦としては中流階級の収入で生活を送っていたし、 中流階級の社会的地位しかなかったとする)。

 

ところが、ある日、夫が突然、10億円の不動産を購入してきた。

 

この場合、夫の不動産の購入は日常家事債務には当たらないと考えられる。

しかし、この考え方を貫徹すると、夫と取引をした者に不測の損害を与える危険性がある。

 

では、この場合どのように処理をすれば良いのか?

 

 

■761条+110条類推適用

この問題について、前掲・最判昭和44年12月18日は次のように述べている。

 

「夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、 その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法110条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあって、 相当でない」

 

従って、「夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、 当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、 民法110条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りるものと解するのが相当である」(太字は引用者

 

つまり、最高裁は上記の問題について、110条を類推することで処理すべし、という判断を下したのである。

 

但し、注意すべきは、最高裁が110条を類推しているのは日常家事債務の範囲だけである、 という点である。

 

換言すれば、最高裁は、日常家事債務の範囲を拡大しているだけなのである。

 

要するに、最高裁は、761条の法的性質について代理権説を採用してはいるが、 761条を基本代理権として110条を適用している訳ではない。

むしろ、この考え方については、「夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあって、相当でない」として、採用を否定しているのである。

 

勿論、761条を基本代理権として110条をそのまま適用する考え方は理論的にはあり得る。

しかし、最高裁はこの考え方を明示的に否定している。注意して欲しい。

 

尚、日常家事債務について勉強するのであれば、道垣内弘人「日常家事債務の連帯責任」道垣内弘人=大村敦志『民法解釈ゼミナール5 親族・相続』有斐閣、1999年)28頁以下がお薦めである。

 

同論文は、判例の問題点などを、図表+簡潔にして要を得た文章で解説しており、非常に分かりやすい。

 

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