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2006年11月 8日 (水)

【刑訴】 「場所」に対する捜索差押令状の効力が及ぶ範囲

今日は、「場所」に対する捜索差押令状の効力が及ぶ範囲について、一言 (一言と言うにはやや長いが)。

 

 

■問題

「場所」に対する捜索差押令状で、その「場所」に存在した「物」、「身体」 について捜索差押えをすることはできるのか?

 

 

 

■条文

218条1項前段
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、 犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押、捜索又は検証をすることができる。

 

219条1項
前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押えるべき物、 捜索すべき場所、身体若しくは物、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、 有効期間及びその期間経過後は差押、 捜索又は検証に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、 裁判官が、これに記名押印しなければならない。

 

 

■議論の状況

結論から言うと、「場所」 に対する捜索差押令状で、令状に示されている「場所」の管理権者の「物」に対して捜索差押えができることは、 争いが無いと言って良い。

 

争いがあるのは、「場所」の管理権者以外の「物」、即ち、 第三者の「物」に対して「場所」 に対する捜索差押令状で捜索差押えをすることができるか、である。

 

ちなみに、「場所」 に対する捜索差押令状による管理権者&第三者の「身体」 に対する捜索差押えの可否については、原則的にできないという結論でほぼ争いが無い。

 

むしろ、争いがあるのは、どのような場合に例外が認められるか、 という点である。

 

 

 

■「物」 に対する捜索差押えの可否

まず、「場所」に対する令状で、その場に存在した管理権者の「物」 に対して捜索差押えができることについて説明する。

 

例えば、近時の文献で言うと、京大の酒巻先生は次のように述べられている。

 

「一定の場所的空間内に存在する『物』 (例えば捜索すべき居宅内に存在する机、金庫、 鞄等)については、 捜索によるプライヴァシィ領域の侵害制約が許可された『場所』に存在し、その場所と同一の管理支配の下にある『物』である限り、 場所に対する捜索令状の発布により、併せて捜索による法益侵害が許可されているものと考えることができる」 (酒巻匡「令状による捜索・差押え(1)」 法教293号84頁。同旨・三井誠 『刑事手続法(1)〔新版〕』〔有斐閣、1997年〕45頁)。

 

要するに、この結論は、以下の2つの理由に基づく。

 

第1は、「物」についてのプライバシー権は「場所」についてのプライバシー権に包含される、 という理由である。

第2は、令状裁判官も物が存在する可能性を考慮に入れた上で令状を発布している、 という理由である。

 

 

他方、同じ「物」でも争いがあるのは、第三者の所有する「物」 についての捜索差押えの可否である。

 

この問題について正面から答えた判例は一般には知られていない。

 

他方、学説では、原則として第三者の所有する「物」については捜索差押えはできない、と考えているようである (尚、検察では第三者の「物」についても捜索差押えはできる、 とする見解も主張されている)。

 

何故ならば、この場合は、侵害されるプライバシー権の主体が異なる以上、「場所」 についてのプライバシー権に包含されるとは言えないし、令状裁判官も考慮に入れているとは考えられないからである。

 

例外は、その第三者の「物」に、元々、その「場所」にあった「物」が隠匿されている合理的疑いが存在する場合である。

 

但し、前掲・三井45頁が的確に指摘しているように、実際の現場では、ある「物」 が第三者の者であるか否かを区別することは困難である。

 

そのため、現実的には、第三者の「物」を捜索差押えすることはしばしばあり、かつ、 それは適法と評価されることが多いと考えられる

 

違法と評価されるのは、例えば、「第三者の物であることが合理的に判断できるのに、それが怠られたケース」 (前掲・三井45頁)などである。

 

先程述べた検察の見解は、この実務を踏まえたものと言えるかもしれない。

 

 

 

■「身体」 に対する捜索差押えの可否

既に述べたように、「場所」に対する捜索差押令状で、その場に居合わせた者の「身体」 を捜索差押えすることは原則としてできない、と一般に考えられている。

 

これは、主として以下の3つの理由に基づく(島田仁郎 「場所に対する捜索令状の執行の際、その場に居合わせた者に対しどの程度の捜索を実施することができるのか」『増補 令状基本問題(下)』 〔判例時報社、2002年〕231頁以下参照)。

 

第1は、文理上、「場所」に「身体」は含まれない、という理由である。

 

第2は、219条1項などの文言上、捜索の対象として人の身体は場所と区別して挙げられている、 という理由である。

 

第3は、身体の捜索により侵害される利益(人身の自由)は場所の捜索により侵害される利益(住居の不可侵) よりも一般的に大きい、という理由である。

 

但し、第2の理由は、「場所」に対する令状の効力が「物」 に及ぶという上記の結論と整合性を欠く可能性があるので、用いない方が無難であろう

 

 

また、この問題について下級審裁判例(京都地決昭和48年12月11日判タ307号305頁)も次のように述べる。

 

「一般に、 人の住居等ある特定の場所についての捜索状を執行するに当っては、たまたまその場に居合わせた第三者の占有物と認められる物を除くほか、 その場所にある物についても捜索できるものと解すべきであるが、 その場所にいる人の身体について捜索することは、 その者がその場所にあった捜索の目的物を身体に隠匿していると認めるに足りる客観的な状況が存在するなどの特段の事情のない限り、 原則として許されないものと解するのが相当である」(太字は引用者)。

 

「けだし、通常『場所』 という概念にはそこにいる人は含まれないと解されるのみならず、身体の捜索により侵害される利益(人身の自由) は場所の捜索によるそれ(住居権) には包含されないと考えられるからである」。

 

 

以上のように、裁判例・学説は、「場所」に対する捜索差押令状で「身体」に対する捜索差押えをすることは原則としてできない、 と考える傾向にある。

 

そのため、現在では、 どのような場合に、 どのような理由で、例外的に「場所」に対する捜索差押令状で 「身体」に対する捜索差押えが許されるのか、という点に問題が移動している(場合と理由を区別することが重要である)。

 

この問題について、下級審裁判例は、次のように述べている(太字、 青字は引用者)。

 

まず、東京地裁は次のように述べる。

 

捜索においては、 「当該捜索場所に対する捜索の目的を遺漏なく達成する必要があるので、捜査官において、 捜索場所に現在する人が捜索の目的物(差し押さえるべき物)を所持していると疑うに足りる十分な状況があり、 直ちにその目的物を確保する必要性と緊急性があると認めた場合には、場所に対する捜索令状によりその人の身体に対しても強制力を用いて捜索をすることができるものと解すべきである」 (東京地判昭和63年11月25日判時1311号157頁

 

上記判決で、東京地裁は、捜索時現在において所持している場合、 捜索差押令状の効力が及ぶという理由で、「身体」に対する捜索差押えを認めている。

 

 

次に、東京高裁は以下のように述べる。

 

「場所に対する捜索差押許可状の効力は、 当該捜索すべき場所に現在する者が当該差し押さえるべき物をその着衣・ 身体に隠匿所持していると疑うに足りる相当な理由があり、許可状の目的とする差押を有効に実現するためにはその者の着衣・ 身体を捜索する必要が認められる具体的な状況の下においては、その者の着衣・ 身体にも及ぶものと解するのが相当である(もとより「捜索」 許可状である以上、着衣・身体の捜索に限られ、身体の検査にまで及ばないことはいうまでもない。)」(東京高判平成6年5月11日高刑集47巻2号237頁

 

上記判決で、東京高裁は、捜索差押えの対象物を隠匿所持していると疑うに足りる相当な場合、 捜索差押令状の効力が及ぶという理由で、「身体」に対する捜索差押えを認めている。

 

 

他方、学説では、このような下級審の考え方に対する批判が2つの観点から主張されている。

 

第1は、「理由」に対する批判である。

 

即ち、「このような場合に、場所に対する捜索令状の効力が、 にわかに『人の身体』にも及ぶことになると解するのは不合理である。そのように解することは、 現行法に法定されていない人の身体に対する緊急捜索を許容することに他ならず、不当といわなければならない」。

 

むしろ、 「差押令状の付随的効力である処分実行に対する妨害を排除し原状を回復して差押えの目的を有効に完遂実現するための『必要な処分』として、 差し押さえるべき物を隠匿した人の身体に対し、原状回復のための措置ができると整理・理解しておくのが合理的・整合的であろう」 以上につき、酒巻匡「令状による捜索・差押え(2)」法教294号109頁。同旨・前掲・ 三井46頁)。

 

 

第2は、例外的に許される「場合」の限定の甘さに対する批判である。

 

即ち、上記のとおり、学説によれば、 「場所に対する捜索の際に行われる人の身体の捜索は、…… 当該捜索に対する直接的な妨害証拠隠滅の試み)を排して、捜索の目的物を発見・確保するのに必要最小限度の付随処分として許されるもの」である (長沼範良ほか著 『演習刑事訴訟法』〔有斐閣、2005年〕123頁〔田中開〕。太字は引用者)。

 

従って、東京地裁・東京高裁のように「所持」していれば、それだけで例外が認められる「場合」に該当すると考えるのは不合理であろう。

 

何故ならば、「所持」という規範は、「直接的な妨害」以外の場合も含み得るからである。

 

つまり、証拠隠滅を意図せずして、たまたま保有していた場合も、「所持」という要件は充足され得る。

 

しかし、令状は、そのような場合まで意図して発布されたものではないはずである。

従って、このような場合にまで「必要な処分」(222条1項、 111条)を認めることはできないと考えられる。

 

むしろ、

 

「その場に居合わせた者が、 捜索の最中又はその直前にその場にあった目的物件を身体ないし着衣に隠匿したと認められ、 又はそのように疑うに足りる合理的な理由がある場合」(前掲・島田232頁以下

 

という限定が妥当であると考えられる。

 

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