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2006年12月 1日 (金)

【民法】 不法行為の基礎的な思考プロセス・その2 ――全体構造について

今日は、前回と同じく不法行為の基礎的な思考プロセスのうち、 全体構造について一言。

観念的な話で面白くないかもしれないし、役に立たないかもしれないが……。

 

 

■学説の状況

不法行為の要件全体をどのような視点から構成するかについては激しい争いがある。

……が、その議論については本ブログでは説明することができない(説明する能力も無ければ、時間も無い)。

 

従って、要件全体についての学説の詳細は、各自の基本書・体系書でご確認頂きたい。

尚、代表的な構成の一部と、その主唱者を挙げれば以下のとおりである。

 

■一元論

□ 過失一元論(平井宜雄先生)。

□ 違法性一元論(前田達明先生)。

※ 尚、 過失一元論も違法性一元論も、過失の判断構造の実質は相関関係説と同じである。但し、過失一元論ではハンドの公式が用いられるし、 違法性一元論では過失判断は「違法性」という概念において為される。

 

 

■二元論

□ 相関関係理説(我妻栄先生。 伝統的通説)。

□ 権利侵害論構成(星野英一先生。 この名称は私が勝手に付けただけである)。

□ 基本権保護構成(潮見佳男先生。山本敬三先生。 この名称も私が勝手に付けただけである)。

※ また、 学説の中には判例全体をこのような統一理論で説明することは困難であるとして、 問題となる場面ごとに類型化した要件を定立すべきとする見解もある。例えば、窪田充見先生がこの立場である。

 

そして、上記の諸構成のうち、特に重要度が高いものは、我妻先生の相関関係説と、 平井先生の過失一元論である。

 

平井先生の過失一元論を理解する必要性については異論もあるかもしれない。

しかし、過失一元論がわが国の学説に与えた影響の大きさや、損害賠償の思考過程の明晰さを踏まえれば、 理解する必要性は高いと考えられる。

 

 

■今後の説明で採用する立場

上記のように、代表的な学説の一部だけを取り上げても、その判断構造は様々である。

 

だが、これらを全て理解する必要性は無い。

 

これは、どの学説を採用しても、大半の問題では結論は異ならないという理由に基づく。

 

確かに、結論が変わる問題もある。特に、先端的な議論で為されている問題では自らが拠って立つ見解によって結論が変わり得る。

 

しかし、少なくとも本稿は、不法行為の基礎的な思考プロセスの説明を目的としている。

 

とすれば、百花繚乱の状況――澤井先生は「混迷」と仰ったが――を呈する不法行為法学の全てを理解する必要性は無いはずである。

 

 

しかも、実は、これらの判断方法の実質には共通性が認められる

例えば、既に述べたように、相関関係説の過失の判断構造と、過失一元論や違法性一元論の判断構造は実質的に同じである。

 

また、二元論を採用する立場の論者も、常に二元的判断枠組みを維持できる訳ではないことを認めている。

即ち、保護法益の範囲(外延)が不明確な場合は、 多かれ少なかれ行為態様を考慮しなければならないという点については、ほぼ争いが無い。

 

従って、不法行為を学ぶに際しては、自分が共感を持てる見解や、答案で用いやすい答案を採用すれば良い。

 

そして、どのような見解に立とうとも、常に条文を意識することが重要である。

 

繰り返しになるが、解釈学では、「まず条文」である。

 

体系や理論を学ぶさいには、 そこでの議論がいったいどの条文のどの要件について為されているものかに常に注意を払う必要がある。

 

そして、実際に議論をする際や、答案に記述をする際には、自分が今、 どの要件について論じているのかを明確にしておくことが必要である。

 

また、自己の採用する見解が、条文の文言に無い要件を用いている場合には、何故、そのような要件を設定する必要があるのか、 充分に理解しておく必要がある。

 

 

■709条の構造 ――確認の為に

709条 【不法行為による損害賠償】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、 これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

故意・過失行為


責任成立の因果関係

権利・法益侵害


責任範囲の因果関係

損害発生

 

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