【憲法】 平等原則の違憲審査基準についてのメモ
今日は、平等原則(14条1項) の違憲審査基準の基本について、一言。
あくまで基本的な事項なので、憲法を得意とされている方には無益な投稿だと思われる……(汗)。
■条文
第14条1項
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、
経済的又は社会的関係において、差別されない。
■本稿で扱うテーマ
通説は、平等原則の違憲審査基準について、いわゆる「二重の基準」の考え方を用いている(芦部信喜 〔高橋和之補訂〕『憲法 〔第3版〕』〔岩波書店、2002年〕125頁以下、渋谷秀樹=赤坂正浩 『憲法1 人権〔第2版〕』〔有斐閣、2004年〕315頁〔赤坂正浩〕など)。
本稿が扱うテーマは、この通説の見解を前提とした上で 「いかにして実際に用いる違憲審査基準を決定するか」である。
■後段列挙事由に該当すれば常に厳格審査基準が用いられるのか?
争いはあるものの、現在では、14条1項後段列挙事由は歴史的に見て「差別」 に当たる可能性が高い事由を例示列挙したものと考えられている。
そのため、後段列挙事由に該当する場合は、常に厳格な審査基準が用いられる。
以上の説明は正しいだろうか?
結論から言えば、正しくない。
確かに、ある法律が14条1項後段事由に該当する場合は、厳格な審査基準が用いられる場合が多い。
しかし、「常に」厳格な審査基準が用いられるわけではない。
「原則として」用いられるだけである。
ところが、14条1項後段が論点になる問題の処理の仕方を拝見していると、この点の理解が不十分である方が少なくない。
より敷衍して言うと、平等原則の問題についての理解が不十分な方が少なくない。
そのため、問題の処理の仕方がお座なりになっていることが多い。
■学説の説明
まず、本題に入る前に、前提的な説明を行う。
学説では、平等原則の違憲審査基準を考えるに際しては、目的審査基準を用いる前に2段階の審査をすべきである、 という見解が有力に主張されている。
例えば、佐藤幸治先生は、大要、次のように述べられている(佐藤幸治 『憲法〔第3版〕』〔青林書院、平成7年〕477頁以下参照)。
第1段階では、ある区別が人格的価値の平等に反するか否かを検討する。これは 「大原則」に違反するか否かの判断である。
第2段階では、法のとる具体的措置が「国民の基本的平等の原則の範囲内」 のものか否かを検討する。二重の基準論の議論はこの段階での議論である。
但し、現在の最高裁は上記のような考え方を採用していないと解されている。
閑話休題。
本題に入る。
結論から言えば、学説上、平等原則の違憲審査基準を決定する際には、
「いかなる要素を基準として」
「いかなる権利・利益に差異を設けているのか」
に着目する必要がある。
つまり、平等原則の違憲審査基準に何を用いるかは、この2つの要素を利益衡量して決定されるべきと学説上考えられているのである。
このような見解は複数の先生によって主張されている。
例えば、浦部先生は次のように述べられる(浦部法穂 『全訂 憲法学教室』〔日本評論社、2000年〕107頁)。
「そもそも、異なった取扱いが合理的であるか否かは、 各人のそなえているさまざまな事実状態のうち、どれに着目し、どのような権利・利益について、どの程度に異なった取扱いをするか、 によって一様ではない」。
「同じ違いに着目したものであっても、そこで問題になっている権利・ 利益がなにかによって、ある場合には合理的なものとみることができ、ある場合には不合理なものとみなければならない」。
また、戸松先生も同趣旨のことを述べられている(戸松秀典=井上典之 「平等原則の裁判的実現」井上典之=小山剛=山本一『憲法学説に聞く』32頁参照)。
したがって、後段列挙事由の要素を「基準」とした区別であっても、そこでもたらされている「権利・利益の差異」によっては、 厳格な審査基準ではなく、厳格な合理性の基準が用いられることもある。
例えば、嫡出子か婚外子かという「社会的身分」を基準とした区別であっても、相続分に差異を設けている場合には、 租税の特殊性に鑑みて厳格な合理性の基準を用いるべき、という見解があり得る(前掲・戸松=井上31頁)。
ちなみに、平等原則の違憲審査基準については、「14条1項後段列挙事由以外の原則的に厳格な審査基準が用いられるべき事由は何か?」 という問題もある。
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