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2007年2月18日 (日)

【民法】 483条の意味

今日は、時々質問を受ける、483条の意味について、一言。

 

 

 

■条文

(特定物の現状による引渡し)

第483条

債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、 その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

 

 

 

■かつての通説

かつて、瑕疵担保責任の法的性格について法定責任説が通説だった頃は、 483条はいわゆる特定物ドグマの根拠条文と解されることもあった。

 

また、一部の予備校は、今でも483条を瑕疵担保責任における法定責任説の根拠条文としているようである。

 

 

 

■現在の多数説

しかし、現在の多数説は、

 

「483条は格別の意義を有しない規定」 (奥田昌道『債権総論〔増補版〕』〔悠々社、1992年〕38頁

 

と理解している。

 

 

そもそも、立法者は483条の存在意義について、次のように考えていたようである(平井宜雄『債権総論』〔弘文堂、平成8年部分補正〕178頁参照)。

 

 

(1)  同条はいかなる状況で引き渡すべきかを定めるものである。

例えば、木材やワインなどは気候・ 温度の変化などによって様々な性質変化を生じることがある。

 

このような場合、いかなる時期の状況を基準にして引き渡すべきか。

これを定めたのが本条である。

 

 

(2)  引渡時までに当事者の過失で物の状況に不利益な変化が生じた場合には、債務者は特定物である以上、 これを引き渡せば債務を果たしたことになるが、損害賠償義務負う。

これを定めたのが本条である。

 

 

(3)  債務者が引渡しを怠ったために不利益な変化が生じた場合も、(2)と同様の処理を行う。

これを定めたのが本条である。

 

 

しかし、(2)の命題は400条の善管注意義務によって導けるので、483条の固有の帰結ではない(483条の趣旨と考える必要が無い)。

 

また、(3)は、単なる債務不履行責任に過ぎないので、483条の固有の帰結ではない。

 

 

したがって、483条固有の意義は、(1)にしかない。

 

即ち、483条は「特定物に関しては、履行期(契約時でも現実の引渡時でもなく、約定された引渡時)の状態で引き渡すべきことを定めた規定にすぎない」 (大村敦志『基本民法 III (第2版)』〔有斐閣、平成17年〕12頁)。

 

 

 

■瑕疵担保責任の論証

上記の説明から分かるように、現在の多数説は次のように考えている。

 

「履行期限の現状で引き渡せば完全な履行であって債務者が解放されるという意味や、履行期の現状に対して改良・ 補修等を施すことが債務者に禁じられるという意味が483条に含まれているわけではない」(潮見佳男『債権総論〔第2版〕 I 』〔信山社、2003年〕52頁)。

 

しかし、だからと言って民法の解釈論として、およそ法定責任説の考え方をとることが不可能になった訳ではない。

 

 

ましてや、学生レベルの答案で法定責任説をとることが完全に否定された訳ではない。

 

但し、483条に関する上記のような見解が学説の強い支持を受けている以上、 何の躊躇いも無しに瑕疵担保責任における法定責任説の論拠として483条を挙げることは避けた方が良い。

 

法定責任説を採用するのであれば483条を論拠として用いない方が良い。

 

また、483条を論拠として用いるのであれば、何故、483条を論拠として用いることができるのかについて、 ある程度の説明を加えることが必要不可欠だと思われる。

 

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