【憲法】 政教分離原則についてのメモ
今日は、政教分離原則について、簡単に一言、二言。
専門外というか、あまり得意でない分野なので僭越かつ恐縮だが……。
■定義
政教分離原則については、定義レベルで争いがある。
もちろん、「国家と宗教の分離」という最大公約数的な定義は可能であるが(芦部信喜〔高橋和之補訂〕『憲法 第3版』〔岩波書店、2002年〕149頁 )、その具体的内容については学説の一致を見ていない。
この問題について、最大判昭和52年7月13日民集31巻4号533頁(津地鎮祭事件) は次のように述べる。
「元来、政教分離規定は、 いわゆる制度的保障の規定であつて、信教の自由そのものを直接保障するものではなく、国家と宗教との分離を制度として保障することにより、 間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである」。
そして、「政教分離原則は、 国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、 宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ、 そのかかわり合いが右の諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするもの」。
つまり、最高裁は、政教分離原則を制度的保障として捉えている。
また、最高裁は、その分離の程度については完全分離(絶対的分離) ではなく緩和された分離(相対的分離)であるとしている。
※ 最高裁の判旨からすると、 制度的保障説を採ると相対的分離に至るように読める。事実、いわゆる人権説はこの点を批判する。
但し、学説からは制度的保障と分離の程度の間に論理的な関連性は無いという反論がされている(戸波説など)。
■福祉国家と政教分離原則の関係
答案を見ていると、「政教分離は完全分離であることが望ましいが、福祉国家である以上、それは不可能であるから、 緩和された分離で良い」というような論証が散見される。
確かに、この論証自体は間違っていない。
しかし、このような論証は、「福祉国家でなければ完全分離は実現できるのか?」という批判を受ける可能性がある。
また、「恐らく」であるが、このような論証よりは以下のような点を指摘した方が憲法の先生方の「受け」は良いのではないだろうか (自信は無いが)。
まず、批判に対する応えから書くと、、「福祉国家でなければ完全分離は実現できる、というわけではない」。
何故ならば、そもそも、政教分離原則の分離の程度を緩和させる要請は信教の自由から生じているからである。
現行憲法は一方で政教分離原則を掲げ、他方で信教の自由を掲げている。
そして、体系的に整合性のある解釈を実現しようとするのであれば、両者の調和を図る必要がある。
したがって、政教分離原則を徹底することはできず、その分離の程度は緩和されたものと解さざるを得ない。
京大の大石先生も次のように述べられる。
「政教分離の緩和解釈という問題は、信教の自由と政教分離原則とが衝突するということを意識したときから、直ちに生じる問題なのです。したがって、それは福祉国家をいう前のきわめて古典的な問題なのです」。
(大石眞=山本一「信教の自由と政教分離原則」井上典之=小山剛=山本一編『憲法学説に聞く』〔日本評論社、2005年〕69頁)
また、最高裁自身も前掲・最大判昭和52年7月13日で次のように述べている(太字は引用者)。
「政教分離規定の保障の対象となる国家と宗教との分離にもおのずから一定の限界があることを免れず……国家は実際上宗教とある程度のかかわり合いをもたざるをえないことを前提としたうえで、そのかかわり合いが、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で、いかなる場合にいかなる限度で許されないこととなるかが、問題とならざるをえないのである」。
■宗教的中立性(寛容性)と、非宗教性(無宗教性)
論者によって言葉の使い方がバラバラなので、説明しにくいのだが、宗教的中立性(寛容性)と非宗教性(無宗教性)は別物である。
これは2つの点で異なる。
第1に、非宗教性(無宗教性) は緩和されることがあるが、宗教的中立性(寛容性)は緩和されることはない。
つまり、非宗教性(無宗教性)は 「これを現実的に緩和することが正当化される場合がある」が、宗教的中立性(寛容性)は 「これを緩和することは許されない」(初宿正典『憲法2 基本権〔第2版〕』〔成文堂、2001年〕214頁)。
第2に、非宗教性(無宗教性) は宗教的要素に対して排他的であり、その存在を許容しないが、宗教的中立性(寛容性) は排他的ではなく、宗教的要素の存在を許容する。
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コメント
引用されている文献の山元先生のお名前が違うようです…。
投稿: | 2013年7月 5日 (金) 03:05