【民法】 請負人の仕事完成債務が履行不能になった場合の報酬請求権の行方
今日は、 請負人の仕事完成債務が請負人の帰責事由により履行不能になった場合の報酬請求権について、一言。
今日の問題は、私の些細な疑問に由来するものなので、皆さんのお役に立つか疑問だが……。
■問題
注文者Xは、請負人Yとの間で、4月1日までに自己の所有する土地の上に建物Aを建設してもらう旨の請負契約を締結した。
ところが、3月10日に請負人Yの失火により建物Aが消失し、期日までに建物を完成させることはできなくなった。
そして、これは本契約では履行不能と評価される事態であった。
したがって、仕事完成債務が履行不能になった。
この場合、請負人Yが注文者Xに対して有していた報酬請求権はどうなるのか?
■伝統的通説
この問題について、伝統的通説は、報酬請求権は「当然に」消滅すると考えているように見える (学説状況については山本敬三『民法講義IV-1』〔有斐閣、2005年〕669頁以下参照) 。
例えば、有力な先生方は次のように記述されている。
「請負人に帰責事由あるときは、滅失部分につき報酬請求権は消滅し、 債務不履行責任を負う」(山田卓生ほか著『分析と展開 民法 II 〔第4版〕』〔弘文堂、平成15年〕248頁〔鎌田薫〕)。
「仕事完成前に履行不能を生じた場合……には、仕事完成義務は消滅する。 この場合、履行不能が請負人の責に帰すべき事由によって生じたものであるときは、 請負人は損害賠償責任を負うのみならず報酬請求権は失ってしまう」(幾代通=広中俊雄編『新版 注釈民法 (16)』〔有斐閣、平成元年〕128頁〔広中俊雄〕)。
しかし、何故、報酬請求権が消滅するか、その理由は書かれていない。
■民法の原則
素朴に考えれば、本件問題の状況は、履行不能に基づく単なる債務不履行と同じはずである。
次のような設例を考えてみる。
買主はAは、売主Bから絵画甲を1000万円で購入する契約を締結した。
ところが、その絵画は、Bの過失により滅失してしまった。
この場合、買主Aの売主Bに対する絵画引渡請求権は債務不履行に基づく損害賠償請求権に転化する。
そして、売主Bに帰責事由がある以上、 本件は危険負担の問題ではなく、 売主Bの買主Aに対する代金支払請求権は存続しているはずである。
この後の処理としては、買主Aの売主Bに対する損害賠償請求権と、 売主Bの買主Aに対する代金支払請求権とが相殺されるのが通常であろう。
したがって、この考え方を冒頭の問題にそのまま適用すれば、 請負人Yの注文者Xに対する報酬請求権は消滅しないはずである。
事実、潮見先生は次のように述べられている。
「履行不能になったことにつき請負人に帰責事由がある場合には、請負人は損害賠償債務を負担し、これと請負代金請求権との相殺が問題となる」 (潮見佳男『基本講義 債権各論 I 』〔新世社、2005年〕194頁)。
ひょっとすると、伝統的通説もこのように考えているのかもしれない。
だが、その旨を記載した文献は残念ながら発見できなかった。
白石先生が『独禁法講義〔第3版〕』で指摘されるように、法律解釈論では、基本からの演繹が何より大事である。
そして、この観点からすれば、潮見先生のように考えるのが素直であるし、論理的であると考えられる。
ただ、そうは言っても、学生の方が伝統的通説を答案で展開して減点されることは、まず無いと思われる。
もし、不安であれば、次の内田先生の記述ようにぼやかして書けば良い。
「請負人に帰責事由があれば、 請負人は履行による債務不履行責任を負う。この場合、請負人の報酬請求権は消滅すると解されている」 (内田貴『民法 II 』〔東京大学出版会、1997年〕265頁。太字は引用者)。
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コメント
私も同じことに疑問を持って検索したらこの
記事にたどり着きました
感動しました
投稿: | 2012年2月 3日 (金) 16:39