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2007年3月 6日 (火)

【民法】 192条の「善意」・「無過失」の意味

今日は、質問を受けたので、192条の「善意」・「無過失」の意味について、一言。

 

 

 

■条文

(即時取得) 第192条

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、 善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

 

 

 

■「善意」・ 「無過失」の意味

192条の要件である「善意」・「無過失」とは、何についての「善意」・「無過失」か?

 

 

まず、沿革、および条文の文言からすると次のような見解が主張され得る。

 

即ち、 「条文の成り立ちからは、善意取得は取得される占有の効果とされているのであるから、開始される取得者の占有が、 (開始時点において) 善意・無過失の占有であるべきことが問題とされている、と見ることができる」(広中俊雄=星野英一『民法典の百年 III』〔有斐閣、1998年〕483頁〔安永正昭〕 )。

 

そして、このように考えるのであれば、192条の「善意」・「無過失」とは

 

「 『動産の占有を始めた者』が、取得した自分の占有が本権(所有権・質権) に基づかないことを知らない、それにつき過失がないこと」(安永正昭「入門講義 物権・担保物権法 第6回 物権変動(5)」 法教312号19頁

 

を意味するはずである。

 

しかし、このような考え方には次のような問題がある(尚、 朝鮮高院判大正15年10月5日評論15巻民法1145頁参照)。

 

即ち、 このように考えると、「未成年者たる所有者から譲り受けたがそれによる取消事由の存在も知らない事例も本条に含まれてしまう。しかし、 これは未成年者取消しの制度趣旨はもちろん、民法192条の制度趣旨にも合致しない」(前掲・安永・入門講義19頁)。

 

 

そのため、判例・学説では、「善意」・「無過失」の意義について次のように説明されている(最判昭和26年11月27日民集5巻13号775頁も参照)。

 

「相手方が無権利者でない(処分する権限がある)と誤信し、かつ、そう誤信するについて過失のないこと」 (我妻栄〔有泉亨補訂〕『新訂 物権法(民法講義II )』 〔岩波書店、1983年〕220頁〔205〕)。

 

尚、半信半疑の場合は、192条の「善意」には含まれないと一般に解されている。

 

 

 

■占有に対する信頼との関係

「善意」・「無過失」の意義については上述のとおりである。

ところで、学説では同時に次のような説明も為されている。

 

「即時取得は、 前主の占有に対する信頼を保護する制度であり、それを信頼したCは、平穏・公然・善意・ 無過失を条件として保護される」(近江幸治 『民法講義II 物権法〔第2版〕』〔成文堂、2003年〕144頁。太字部分は原文では傍点)。

 

 

 

つまり、192条が成立するためには、「前主の占有に対する信頼」が必要とされているのである。

 

では、この「前主の占有に対する信頼」とは、192条の「善意」と同義なのか?

 

 

ここから先は、あくまで私の理解である。

私は以下の理解で正しいと考えているが、ひょっとすると、 誤りがあるかもしれないので、その点を踏まえてお読み頂きたい。

 

 

結論から言うと、同義であると考えられる。

 

つまり、ここで言う「前主の占有に対する信頼」とは、最終的には前主の本権に向けられているものと考えられる。

 

取得者 ―→ 占有 ―→ 本権

 

何故ならば、現在の判例・通説は、即時取得の制度を、 冒頭で述べたような 「動産占有の効果」に基づく制度とは考えておらず、 「前主の占有の有する本権表象機能を基礎とする制度」 と理解しているからである(前掲・安永・百年485頁参照)。

 

そして、このように理解するのであれば、「前主の占有に対する信頼」は、直接的には占有に向けられているものの、 最終的にはその占有の背後にある本権に向けられていると考えられる。

 

したがって、ここで言う信頼とは、結局、前主が権利者であるということについての信頼と等しい。

 

よって、ここで言う信頼は「相手方が無権利者でない(処分する権限がある)と誤信」すること、即ち「善意」と同義と考えられる。

 

 

事実、佐久間先生は次のように説明される。

 

「即時取得制度は、占有という権利の外形から権利の存在を信じて取引した者を、前主に権利があった場合と同様の地位に置くものである」 (佐久間毅 『民法の基礎2 物権』〔有斐閣、2006年〕145頁)。     

 

 

このように理解すると、先程引用した近江先生の説明は、「信頼」と「善意」を別個のものとしている点で適切ではないということになる。

 

むしろ、北川先生のように説明すべきだろう。

 

「動産の即時取得のつぎの要件は、無権利者である前主の占有を信頼することである。……前主の占有の信頼とは、 取引行為による動産の占有が平穏・公然・善意・無過失で開始されることである」(北川善太郎 『物権(民法講要 II )〔第3版〕』〔有斐閣、2004年〕94頁

 

 

 

■関連する拙稿

【民法】 善意・悪意
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_c948.html

【民法】 即時取得(善意取得)の要件・その1〔導入〕
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_4a07.html

【民法】 即時取得(善意取得)の要件・その2〔要件〕
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_1229.html

 

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