【会社法】 株主総会の決議の効力を争う訴訟と訴えの利益に関する裁判例について
今日は、質問を受けたので、株主総会の決議の効力を争う訴訟と訴えの利益に関する裁判例について、一言。
■定義
訴えの利益とは、「本案判決をすることの必要性およびその実際上の効果(実効性)を、個々の請求内容について吟味する」ための要件を言う(新堂幸司『新民事訴訟法 〔第三版〕』〔弘文堂、平成16年〕237頁)。
■最判昭和45年4月2日民集24巻4号223頁
本来であれば、判決文を正確に引用すべきだが、諸々の事情により、本稿では、以下、裁判要旨を掲載するに留める。
裁判要旨
1. 役員選任の株主総会決議取消の訴の係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によつて取締役ら役員が新たに選任されたときは、特別の事情のないかぎり、右決議取消の訴は、訴の利益を欠くに至るものと解すべきである。
2. 前項の場合であつても、右株主総会決議取消の訴が当該取締役の在任中の行為について会社の受けた損害を回復することを目的とするものである旨の特別事情が立証されるときは、訴の利益は失われない。
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http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=27355&hanreiKbn=01
本件では、株主総会決議取消しの訴えが提起されており、この訴えは形成の訴えである。
そして、形成の訴えの利益は、
「訴訟の係属前または継続中に事情の変化によって訴えの目的たる法律関係を変動せしめることが無意味になるとき」
には失われる(前掲・新堂258頁)。
これを本件について見ると、役員の任期が満了し、役員らは既にその決議に基づく地位を失っている以上、当該役員らを選任した決議を取り消してこれらの者の地位を失わせる必要性は消滅している。
よって、訴えの利益は失われたと言える。
また、その反射的な効果として、当該役員らを選任した決議は有効なものとして確定するのが原則である。
■最判平成2年4月17日民集44巻3号526頁
裁判要旨
取締役に選任する旨の株主総会の決議が不存在である場合に、その者を構成員の一員とする取締役会で選任された代表取締役が、その取締役会の招集決定に基づき招集した株主総会において取締役を選任する旨の決議がされたときは、右決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなど特段の事情がない限り、不存在である。
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本件要旨を端的に述べれば、先行決議の瑕疵は後行決議の瑕疵になる、ということである(瑕疵連鎖説)。
即ち、先行決議が不存在である場合、その先行決議で選任された取締役は適法な取締役ではない。
したがって、そのような取締役が関与した取締役会もまた適法な取締役会ではない。
よって、そのような取締役会で選任された代表取締役も適法な代表取締役ではない。
故に、そのような代表取締役が招集した株主総会には、招集手続の瑕疵が認められる。
但し、最高裁は、招集手続を欠く場合――招集手続の最も大きな瑕疵がある場合――であっても、株主全員が総会の開催に同意して出席した場合(全員出席総会の場合)には、当該総会決議は有効に成立するとしている(最判昭和60年12月20日民集39巻8号1869頁)。
したがって、上記のように”違法”な代表取締役によって招集された株主総会であっても、全員出席総会の場合は例外的に当該総会決議は有効になる。
■最判平成11年3月25日民集53巻3号580頁
裁判要旨
取締役等を選任する甲株主総会決議の不存在確認請求に、同決議が存在しないことを理由とする後任取締役等の選任に係る乙株主総会決議の不存在確認請求が併合されている場合には、後の決議がいわゆる全員出席総会において行われたなどの特段の事情のない限り、先の決議についても存否の確認の利益が認められる。
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まず、本件要旨の状況を図示(?)すると、以下のようになる。
甲株主総会 ←― 不存在確認
↓
乙株主総会 ←― 不存在確認
次に、本判決の問題の所在については、八木一洋調査官が端的に述べられている。
「取締役等を選任する株主総会決議について、その不存在確認請求訴訟が提起された後、事件の審理中に、右選任に係る者の任期が満了したなどとして、後任者の選任決議が行われる事態は、実務上しばしば生ずるところである。このような場合における先行決議の不存在確認請求訴訟の適法性の帰すうが問題となる」(『最高裁判所判例解説 民事編 平成11年度(上)』302頁)。
ところで、株主総会決議不存在確認の訴えは、文字どおり、確認の訴えである。
そして、確認の訴えの利益は、
「原告の権利または法律的地位に不安が現に存在し、かつ不安を除去する方法として原告・被告間でその訴訟物たる権利または法律関係の存否の判決をすることが有効適切である場合に」(前掲・新堂249頁)。
に認められる。
そして、本件では、後行決議で取締役等が新たに選任されている以上、前掲・最判昭和45年4月2日と同様に考えれば、先行決議の訴えの利益は消滅するとも思える。
しかし、この問題について、最高裁は、大要、次のように述べた(尚、「適法」とは全員出席総会を意味するものと考えられる)。
1. 後行の決議が「適法」に行われた場合は、先行決議の不存在確認を求める訴えの利益は消滅する。
2. 後行の決議が「適法」に行われていない場合には、先行決議の不存在確認を求める訴えの利益は消滅しない。
つまり、最高裁は、本件と前掲・最判昭和45年4月2日を別物と考えている。
これは、前掲・最判昭和45年4月2日で問題になっていた訴えが総会決議取消しの訴えであるのに対し、本件で問題になっているものは総会決議不存在確認の訴えである、という理由に基づく。
即ち、総会決議取消しの訴えが提起されていた前掲・最判昭和45年4月2日の場合は、
「役員の任期が満了し、役員らは既にその決議に基づく地位を失っている以上、当該役員らを選任した決議を取り消してこれらの者の地位を失わせる必要性は消滅している」
と言える。
しかし、前掲・最判平成2年4月17日から分かるように、最高裁は、株主総会決議が不存在であるという瑕疵は原則として連鎖する、と考えている。
そのため、先行決議に対する訴えが不存在確認である本件の場合は、前掲・最判昭和45年4月2日と同様に考えることはできない。
むしろ、先行決議が不存在であることが確定すれば後行決議も原則として不存在になる以上、先行決議の不存在を確認することは紛争解決に資する。
したがって、後行決議が「適法」になされたと言えない場合――全員出席総会ではない場合――は、先行決議の不存在を確認する利益が認められる。
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