【刑法】 65条について最高裁は団藤説を採用している!?
今日は、刑法65条に関する最高裁の立場について、簡単に一言。
例の如く、目新しい情報はまったく無いので恐縮だが……。
■条文
(身分犯の共犯) 第65条
1項 犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。
2項 身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。
■説明
周知のとおり、65条の法的性格については古くから議論があり、学説は、通説、団藤説、西田説に大別できる。
そして、通説は、1項を真正身分犯に関する規定、2項を不真正身分犯に関する規定と解釈する。
他方、団藤先生は次のように65条を解釈される。
65条1項に言う” 犯人の身分によって構成すべき犯罪行為”とは、「すなわち身分犯である。その身がなければなんらの罪を構成しないもの(真正身分犯)と、その身分がなければ他の――法定刑がそれよも重いかまたは軽いところの――罪を構成するもの(不真正身分犯)との2種類がある」。
「どちらも行為者が身分を有することによってはじめてその罪が構成されることに変わりはない。65条1項が真正身分犯、2項が不真正身分犯に関するものと考えるのが一般の見解のようであるが、以上のように考えると、これは、おそらく妥当でない」。
「わたくしは、1項は――両者を通じて―― 共犯の成立の問題、2項は――とくに不真正身分犯だけについて――科刑の問題を規定したものであると考えるのである」(以上につき、団藤重光『刑法綱要総論』〔創文社、1990年〕418頁)。
ところで。
一部の予備校の参考書などでは、最高裁は団藤説を採用している、と説明されているようである。
確かに、最高裁は、横領罪の事例において団藤説と同様の処理をしている(最判昭和32年11月19日刑集11巻12号3073頁)。
「挙示の証拠によると、右Eのみが昭和24年4月10日頃より同年8月30日までの間右中学校建設委員会の委託を受け同委員会のため、昭和24年8月31日より同年12月頃までの間a村の収入役として同村のため右中学校建設資金の寄附金の受領、保管その他の会計事務に従事していたものであつて、被告人両名はかかる業務に従事していたことは認められないから、刑法65条1項により同法253条に該当する業務上横領罪の共同正犯として論ずべきものである」。
「しかし、同法253条は横領罪の犯人が業務上物を占有する場合において、とくに重い刑を科することを規定したものであるから、業務上物の占有者たる身分のない被告人両名に対しては同法65条2項により同法252条1項の通常の横領罪の刑を科すべきものである」。
しかし、恐らく、この予備校の解説は誤りである。
少なくとも、最高裁は他の事例では通説と同様の処理をしている(最判昭和31年5月24日刑集10巻5号734頁)。
したがって、最高裁が団藤説的な処理をしているのは横領罪に関する事例だけであると考えられる。
そして、これは、業務上横領罪が構成身分と加減的身分を併有しているために為された処理であると考えられる。
学説でも、上記のような判例の理解が一般的ではないかと考えられる。
例えば、学説の皆さんに馴染みのある文献で言えば、西田典之監修・小林憲太郎「事例で学ぶ刑法」法教312号43頁以下を参照して頂きたい。
※ 尚、小林先生は同論考の44頁で次のように述べられている。
「判例の一般的な立場を一貫させれば、非占有者であるYには遺失物等横領罪(254条)の共同正犯が成立するようにも思える」。
しかし、判例の一般的な立場を一貫させても、ここで成立するのは委託物横領罪ではないかと思われるのだが、私がおかしいのだろうか?
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