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2007年5月 7日 (月)

【民法】 解除前の第三者についての覚書

今日は、解除前の第三者について、一言。

 

 

 

■条文

(解除の効果) 第545条1項

当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。

 

 

 

■設例

不動産がA→B→Cと順次売買されたが、その後、AがBの債務不履行を理由にAB間の売買契約を解除した場合、AはCに対して目的物の返還を請求することができるか?

 

 

 

■説明

従来、この問題は――取消と異なって121条のような明文規定が無い為に――解除の法的性質をどのように理解するかという観点から論じられてきた。

 

そして、現在の学説の状況としてはいわゆる原契約変容説が有力だが、本稿では、とりあえず判例・伝統的通説が採用する直接効果説を前提とする(ちなみに、今日では間接効果説をそのまま維持されている論者は極めて少ない)。

 

 

直接効果説によれば、解除には遡及効があり、545条1項但書はその遡及効により影響を受ける第三者の利益を保護する為の規定ということになる。

 

つまり、同条項但書は、96条3項と同じ趣旨の規定ということになる。

 

 

では、545条1項但書の「第三者」に含まれる為には、登記は必要なのか?

 

結論から言えば、判例は、177条が適用され登記は必要である、とする。

 

 

しかし、実は、その根拠は必ずしもはっきりとしていない。

 

その為、判例の意味について、主として2つの考え方が主張されている。

 

第1の見解は、判例は(AがCを被告として訴訟を提起した場合に)Cが545条1項但書の抗弁を主張する為には権利資格保護要件として登記が必要であると考えているのだ、とする。

 

第2の見解は、判例はこの問題を対抗問題として考えているのだ、とする。

 

 

両者の違いは、A・Cが共に登記を備えないまま、AがCを訴えた場合に生じる。

 

即ち、第1の考え方によれば、Cの抗弁が認められないことになるから、Aの請求が認容される。

他方、第2の考え方によれば、Cは対抗要件の抗弁を主張することができるから、Aの請求は認容されない。

 

そして、一般に、第1の考え方の結論を採用した判例は知られていない。

 

その為、判例は、第2の考え方、即ち、545条1項但書の「第三者」に含まれるためには、対抗要件としての登記が必要という考え方を採用しているものと考えられる。

 

 

したがって、判例の考え方に従えば、545条1項但書に言う第三者とは

 

「解除された契約の効果について解除前に新たに利害関係を有するに至った者であって、対抗要件を備えた者」(佐久間毅『民法の基礎2 物権』〔有斐閣、2006年〕94頁

 

ということになる。

 

 

 

ところで、詐欺取消前の第三者には登記は要求されていない。また、94条2項の第三者についても登記は要求されていない。

 

では、何故、解除の場合だけ、第三者保護要件として「登記」が必要なのか?

 

その理由の1つとしては、無効・取消が契約成立時の瑕疵を対象とするのに対し、解除は契約成立以後の瑕疵を対象としているという差異が挙げられている(以下の記述につき、本田純一「法律行為の取消・解除と登記」『新不動産登記講座・第2巻 総論Ⅱ』〔日本評論社、1997年〕59頁以下参照)。

 

つまり、解除は、代金不払のように後発的な原因に基づいて為されることがある。

このような場合は、当然ながら、その権利取得時には解除の原因となる債務不履行が生じていない。

 

そのため、このような場合、解除原因を知って取得したか否か――つまり、善意・悪意という概念――では、第三者の保護態様に区別を設けることかできない。

 

そこで、判例・学説は、「第三者」の要件として善意を求めることなく、登記を要求した。

 

その意味で、545条1項但書の場合には、第三者保護要件としての「登記」の要求は、理論的なものと言うよりは、政策的なものと言って良いと考えられる。


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