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2007年7月23日 (月)

【民法】 平成19年度旧司法試験 第2次試験論文式試験問題 民法第1問について・その1

 

平成19年度旧司法試験・論文式試験問題の民法の問題について質問を受けたので、ご紹介いたします。

ただ、長くなりすぎましたので、今回は第1問の小問1について、ご説明いたします。

 

但し、以下の記述はあくまで私の拙い理解に基づくものあり、試験委員の先生方の出題意図に沿ったものか否かは不明です。 その点をお踏まえになってお読み頂ければ幸いに存じます。

 

尚、他の試験問題については法務省のサイトを御覧下さい。

 

平成19年度旧司法試験第二次試験論文式試験問題
http://www.moj.go.jp/SHIKEN/h19ronbun.html

 

 

 

■問題

買主Xは,売主Aとの間で,Aが所有する唯一の財産である甲土地の売買契約を締結した。ところが, XがAから所有権移転登記を受ける前に,Aは,Bに対して,甲土地について贈与を原因とする所有権移転登記をした。

 

1. 上記の事案において,

(1)AB間の登記に合致する贈与があった場合と,

(2) AB間に所有権移転の事実はなくAB間の登記が虚偽の登記であった場合

のそれぞれについて,Xが,Bに対して, どのような権利に基づいてどのような請求をすることができるかを論ぜよ。

 

2. 上記の事案において,Bは,甲土地について所有権移転登記を取得した後, Cに対して,甲土地を贈与し,その旨の所有権移転登記をした。

この事案において,

(1)AB間の登記に合致する贈与があった場合と,

(2) AB間に所有権移転の事実はなくAB間の登記が虚偽の登記であった場合

のそれぞれについて,Xが,Cに対して, どのような権利に基づいてどのような請求をすることができるかを論ぜよ。

 

 

 

■説明

第1問について

A ―― B


 

第1問・第2問、共通ですが、この場合に真っ先に考えられるべきはXの所有権に基づく物権的返還請求権(明文無し)と思われます。

 

何故ならば、所有権に基づく物権的変換請求権の効果は非常に強力、かつ請求原因の充足が比較的容易であり、 Xの要求に最も沿うと考えられるからです。

 

 

そして、次に考えられるべきは、問題文に「唯一の財産である甲土地」という記述があることからすると、詐害行為取消権(424条) であると考えられます。

 

 

以下、構成をお示し致します(論点によっては説明の為にかなり”過剰” な論証がしてあります。 答案でこんなに長々と書く必要性は全くありません。むしろ、長々と書くとバランスを失します)。

 

尚、今回は旧司法試験ですので、要件事実についての詳細な記述は必須ではないと思います。

もちろん、要件事実論を適切に展開すれば加点されると思いますが。

 

 

(1) AB間に登記に合致する贈与があった場合

まず、Xは、Bに対して所有権に基づく物権的返還請求権を行使すると考えられる。

これに対してBは、自分は「第三者」(177条) に当たるので、Xは登記無き限り自己の所有権取得を対抗することはできないという反論をすると考えられる(対抗要件の抗弁)。

 

では、Bは常に「第三者」に当たるのか?  177条の趣旨が不動産取引の安全を図る点にあることからすれば、「第三者」 とは登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者を意味すると考えられるところ、Bにこの正当な利益があるか否かが問題になる。

 

確かに、 94条2項が虚偽表示者という高度の帰責性を有する者の権利を喪失させる場合ですら第三者に善意を要求していることからすれば、 登記を懈怠したに過ぎない第1譲受人の権利を喪失させる場合(即ち、 177条の場合)には、第1譲渡について善意でなければ正当な利益が認められず、「第三者」とは言えないとも思われる (悪意者排除論)。

 

しかし、通常、不動産を取引しようとする者は当該不動産の権利関係について調査する。

 

そのため、第1譲渡について悪意になる場合は非常に多い。したがって、 悪意者排除論を採用するとかなり多くの者が取引から排除されてしまう。これでは却って第1譲受人の登記懈怠を助長してしまい、 登記による不動産取引の画一的処理という177条の趣旨に反する。

 

とすれば、第1譲渡についての悪意と、第1譲受人に対する害意が共に備わっている場合にのみ正当な利益を否定し、「第三者」 から排除すべきと考えられる(背信的悪意者排除論)。

 

よってに、Bが背信的悪意者である場合には、Bは「第三者」に当たるという反論をすることはできない。

故に、Bが背信的悪意者である場合には、Xは、所有権に基づく物権的返還請求権を行使することができる。

 

 

しかし、裏を返せば、Bが背信的悪意者でない場合にはBは自分が「第三者」に当たるという反論をすることができる。したがって、 この場合、Xは、物権的返還請求権を行使することはできない。

 

 

よって、このような場合、Xは、Aが唯一の財産である甲土地を譲渡したとして、Bに対して詐害行為取消権を行使すると考えられる。

 

では、Xは、「債権者」(424条1項本文)と言えるか。Xが特定物債権者であり、 詐害行為取消権が責任財産保全のための制度であるために問題となる。

 

結論から言えば、特定物債権者であっても「債権者」と言えると考えられる。

何故ならば、特定物債権であっても究極的には損害賠償請求権になり得るのであって、 責任財産をその対象としていると見ることができるからである。

 

よって、詐害行為取消権行使時までにXの甲土地引渡請求権が損害賠償請求権に転化していれば、Xは「債権者」と言える。

 

 

では、Aは、債権者たるXを「害することを知って」 (424条1項本文)Bに譲渡をしたと言えるか

結論から言えば、「害することを知って」Bに譲渡したと言えると考えられる。何故ならば、甲土地はAにとって唯一の財産であり、 それにもかかわらずBは甲土地を無償でBに譲渡しているからである。これでは、Aの責任財産は消滅するだけであって増加しない。 このような行為がBに対する債権者を害することは明らかである。

 

また、このような事情からすれば、無資力要件も充足すると考えられる。

 

以上の主張に対し、Bは、「債権者を害すべき事実を知らなかった」(424条1項ただし書)という抗弁を主張することができる。

ここでの悪意の対象は債権者を害する事実であり、 第1譲渡についての悪意(177条参照)ではない。 したがってBが第1譲渡について背信的悪意者でない場合にも、424条を行使する余地はあると考えられる。

 

故に、上記抗弁が認められなければ、Xは、債権者取消権を行使することができる。

 

 

 

(2)AB間に所有権移転の事実はなくAB間の登記が虚偽の登記であった場合

ここでも、Xは、B所有権に基づく物権的返還請求権を行使すると考えられる。

そして、本問の場合、AB間の登記は虚偽である以上(94条1項、 または同条項類推適用、もしくは無権理法理)、Bは「第三者」(177条)たり得ない。

よって、Xは物権的返還返還請求権を行使することができる。

 

 

つづく

 

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