【民法】 平成19年度旧司法試験 第2次試験論文式試験問題 民法第1問について・その2
前回と同じく、平成19年度旧司法試験・論文式試験問題の民法の問題についてご説明いたします。
今日は、第1問の小問2について、ご説明いたします。
■説明
第2問について
A ―― B ―― C
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X
(1)AB間の登記に合致する贈与があった場合
Xは、Cに対して所有権に基づく物権的返還請求権を行使すると考えられる。
Bが背信的悪意者ではなかった場合。
既に説明したように、私の採用する立場からすれば、「第三者」(177条)から除外されるのは背信的悪意者のみである。
したがって、争いあるも、 登記による画一的な不動産取引の処理という177条の趣旨からすれば、Bが背信的悪意者でなかった場合には、 その段階でBが確定的に所有権を取得すると考えられる(絶対的構成)。
よって、Cは、Xの物権的返還請求権の主張に対して、所有権喪失の抗弁を主張することができる。
故に、この場合、Xは物権的返還請求権を行使することができない。
Bが背信的悪意者であった場合。
この場合、背信的悪意者からの譲受人であるCが凡そ「第三者」 (177条)たり得るかが条文上明らかではないために問題となる。
既に述べたように、背信的悪意者とは信義則上、対抗要件の抗弁の主張を否定される者である。したがって、 その物権変動の存在まで否定される訳ではない、
よって、背信的悪意者といえども物権変動の主体ではある以上、背信的悪意者からの譲受人は「第三者」たり得る。
故に、Cが「第三者」になる余地はある。
したがって、Cは対抗要件の抗弁を主張することができるので、Xは、 Cが背信的悪意者の場合に限って物権的返還請求権を行使することができる。
しかし、裏を返せば、Cが背信的悪意者でない場合には、 XはCから対抗要件の抗弁を受けるので物権的返還請求権を行使することはできない。
この場合は、小問(1)の場合と同様に、Cに対して詐害行為取消権を行使することになると考えられる。そして、この場合も、 請求原因は満たされると考えられる。
よって、Cが「債権者を害すべき事実を知らなかった」(424条1項ただし書)という抗弁を主張することができなければ、 Xは詐害行為取消権を行使することができると考えられる。
尚、424条1項ただし書に言う悪意と、177条に言う背信的悪意との関係については前述のとおりである。
(2)AB間に所有権移転の事実はなくAB間の登記が虚偽の登記であった場合
Xは、Cに対して所有権に基づく物権的返還請求権を行使すると考えられる。
そして、本問の場合、AB間の登記は虚偽である以上、Bは無権利者であり、無権利者からの譲受人であるCも「第三者」 (177条)たり得ないのが原則である (94条1項、または同条項類推適用、もしくは無権理法理) 。
しかし、
(ア) AB間の虚偽登記作成についてAに高度の帰責性があり
(イ) Cが、AB間の登記が虚偽であることについて善意である (Aの帰責性が比較的低い場合は善意無過失)
である場合には、94条2項を類推適用する余地があると考えられる。
そして、94条2項(類推)適用の効果については争いがあるものの、(類推) 適用される場合にXの物権的返還請求権が行使できないという結論について違いはない。
即ち、94条2項が(類推)適用されるとCがAから直接甲土地の所有権を取得するという考え方の場合は、CはXに対して、 自分は例外的に「第三者」(177条) に当たるとして対抗要件の抗弁を主張すると考えられる。
他方、94条2項が(類推)適用されるとCとの関係ではAB間の意思表示が有効になるという考え方の場合は、 A→B→Cと適法な物権変動が生じたことになるので、CはXに対して、 Bが所有権を確定的に取得したとして所有権喪失の抗弁を主張すると考えられる。
但し、94条2項が類推適用される場合であっても、Xは詐害行為取消権を主張することができる。
したがって、Cが「債権者を害すべき事実を知らなかった」(424条1項ただし書)という抗弁を主張することができなければ、 Xは詐害行為取消権を行使することができると考えられる
尚、424条1項ただし書に言う悪意と、177条に言う背信的悪意との関係については前述のとおりである。
■関連する拙稿
【民法】 幾つかの断片的メモ
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_555d.html
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