【余談】 学ぶとは型を真似ること
様々な場面でよく聞く言葉の1つに、「基本が大事」というものがあります。
あまりによく聞く言葉ですので、その重要性を意識している方は少ないかもしれません。
ですが、このありふれた言葉こそが、あらゆる分野における上達の”秘伝” ではないかと私は思います(ありふれた秘伝というのもおかしな言葉ですが)。
そもそも、ある事項に関する自分の能力を本当に上達させるためには、まず、学ぶことが必要です。
これは、学問でもスポーツでも同じです。
そして、学ぶとは真似るということを意味します。
「『学ぶ』 という言葉は、もともと『まねぶ』を語源としている。つまり、その本来の意味は、手本を真似て習うということだ。 手本のなかで学びがいのあるところは、古い言葉で『まねびどころ』という。まずは、自分が極めんとする道の先達の『まねびどころ』 を看取して真似することが、修行の第一歩となる。」(斉藤兆史『努力論』〔筑摩書房、2007年〕58頁)。
例えば、イチロー選手は次のように仰っています。
「最初はマネごとみたいなところからはじまりますよね。
いろんな人のフォームをマネしたりして、
なんなとくいまの自分がいるという感じはあります。」(『夢をつかむイチロー262のメッセージ』〔ぴあ、2005年〕 174頁)。
但し、ただ闇雲に真似ても、効率的ではありません。
斉藤兆史先生がご指摘されるように、先達の「まねびどころ」を真似る必要があります。
そして、その「まねびどころ」こそが、「基本」と言われるものであり、 「型」と呼ばれるものです。
「型」とは、当該分野における全ての行為のペースとなるものを凝縮したものです。
「また、 武道や芸道における『型』も、要約力の結晶である。様々な動きの中で、 最も基本となる動きに動作を限定していくことで全体をおさえることができる。これが、型の機能であり、 これは現実の多彩な動きをいわば要約したものである。」(斉藤孝『「できる人」はどこがちがうのか』〔筑摩書房、2001年〕 39頁)
「型や技といった概念は、技術が要約されたものである。こうした概念のよさは、 重要な技に全エネルギーを徹底的に注ぎ込ませる構えを作ることにある」(前掲・斉藤孝44頁)。
そのため、常に大きな結果を求められる方々は、「型」を常に意識します。
例えば、ジーコ氏は次のようなご指導をなされていたそうです。
「こうした試合中に使われる技術の基本部分(引用者注: サッカーにおけるポジショニングやトラップのこと) に練習のエネルギーの大半を使うことが、上達の王道である。Jリーグ・鹿島アントラーズの基礎を築いたジーコのコーチングにおいても、 基本を徹底的に繰り返すことが行われる。一流の選手は、技術の八割を占める基本を反復練習して完全に<技化>することの価値を、 誰よりも分かっているからである。」(前掲・ 齋藤孝43頁以下)。
もちろん、「型」は、いわば既知の技術であり、「型」だけから革新的な発達は生まれないと思います。
ですが、革新的な発達はいきなり生じるものではありません。
確固たる礎を持たない楼閣は、まさに砂上の楼閣です。
そうであるならば、まずは、その分野における基礎を固める必要があります。
「真似をするとは、まず自分をある方にはめ込む行為である。『型にはまる』という表現自体は『独創性や新鮮味に欠ける』 というような悪い意味で用いられることが多く、型の習得と反復は、とくに戦後の自由主義的、 個性重視の教育のなかで忌避されてきた学習形態だけれども、 およそほとんどの学習や仕事の基本であろうと思う。たとえ何かの技芸を独学で修めたにせよ、 最初から手本すら見ないで独習できるものではない。かならずどこかで真似と反復を繰り返しているはずだ。」 (前掲・斉藤兆史59頁。 太字は引用者)。
そして、基礎を固めた後にはじめて、個性は発生します。
多くの人々に指摘されていることですが、無から有は生まれません。
「もちろん、 型を覚えて修行が完了するわけではない。その型を自分なりにどう使っていくかが次の課題となる。つまり、個性の表現とは、 型を完全に修得したところから、あるいは型を意識しなくなったところからはじまると言っても過言ではない。」 (前掲・斉藤兆史59頁。 太字は引用者)。
イチロー選手も次のように仰っています。
「練習で100%自分を作らないと、打席に立つことはできません。
自分の『形』 を見つけていないと、どん底まで、落とされます。」(前掲・ 『メッセージ』182頁)。
結局、どのような分野であっても、学んで自らを上達させるためには、型や基本を愚直に反復することが最も効率なのではないと思います。
ありふれた結論ではありますが。
以上、駄文失礼。
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