【会社法】 選任決議を欠く登記簿上の取締役について
今日は、以前、質問を受けた選任決議を欠く登記簿上の取締役(就任登記不実型の登記簿上の取締役) について、一言。
関連する拙稿: 【会社法】
登記簿上の取締役について
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post_ed46.html
■定義
選任決議を欠く登記簿上の取締役とは、
「取締役選任決議を欠き、たんに登記簿上取締役として登記されているにすぎない者」
をいう(前田庸『会社法入門〔第11版〕』〔有斐閣、2006年〕 439頁)。
■説明
この就任登記不実型の登記簿上の取締役は、適法な取締役選任決議が為されていない以上、形式的には会社法上の取締役ではない。
したがって、会社法423条1項や429条1項の責任は負わないのが原則である。
しかし、登記簿上の取締役も429条1項の責任を負うことがある。
例えば、判例(最判昭和47年6月15日民集26巻5号984頁)は、不実の登記について、
(1)登記簿上の取締役に明示または黙示の承諾があり、かつ、
(2)不実の登記について「故意または過失がある」場合
には当該取締役は、選任決議を欠くことについて善意の第三者に対して、旧商法14条(会社法908条2項)類推適用により責任を負う、 と判示している。
つまり、判例は、選任決議を欠くことについて善意の第三者との関係では、当該取締役は自分が旧商法266条ノ3(会社法429条1項) の「取締役」に当たらないことを例外的に対抗できないと判示したのである。
尚、柳川俊一調査官によれば、取締役の承諾と故意・過失は別の要件である。
即ち、
「登記の出現に加功した者が当該登記事項の不実であることを知っていたか、または知らないことにつき過失がある場合でなければ、 同条の類推適用はない。本件のように、創立総会や株主総会で選任されていないのに、取締役への就任登記を承諾した者には、故意・ 過失があるのが通常であろう。しかし、場合によっては、総会での選任決議があったものと信じ、 そのように信頼するについて過失がなかったということも考えられないのではないのである」(最判解民事篇〔昭和47年度〕106頁)。
そして、多数説もこの見解を支持する。
ちなみに、ここで旧商法14条(会社法908条2項)が「類推」されているのは、登記簿上の取締役は「登記シタル者」 (=登記申請者。会社法では「登記した者」。要するに会社) に当たらないからである。
これに対し、有力説は(江頭説など)は、会社法908条2項の趣旨は登記に対する信頼を保護する点にある以上、 908条2項を通じて保護される第三者は登記を信頼した者に限るべきで、選任決議を欠くことについて善意であるだけでは足りない、とする。
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