【民法】 保証人の求償関係などについて
今日は、くまころさんから質問を頂きましたので、 保証人の求償関係などについて、一言。
■質問・ その1
委託を受けた又は受けない保証人というのは連帯債務者及び各種保証人(単純、共同、 連帯保証人)をさらに分類したものなのでしょうか?そしてそれらの中に事前、事後の求償権があるのでしょうか
■説明・ その1
結論から言えば、委託を受けた保証人・委託を受けない保証人という概念は、 保証人を分類したものです。
したがいまして、連帯債務とは無関係です。
そして、委託の有無と、事前・事後の求償権の関係は下表のようになります(下表が、 皆様のPC環境でうまく表示されていると良いのですが……)。
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事前求償
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事後求償 |
委託を受けた保証人 |
可能(460条) ※但し、物上保証人 は不可(判例)
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可能(459条) → 出捐額全額を求償可能 |
委託を受けていない保証人 |
不可 |
■主債務者の意思に反していない保証の場合(462条1項) → 弁済当時主債務者が利益を受けた限度で可能
■主債務者の意思に反した保証の場合(462条2項) → 主債務者が現に利益を受けている限度で可能
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■質問・ その2
最初、民法条文の連帯債務(432条)~保証(465条) を読んでいるうちに連帯債務と保証、連帯保証がどう関連しあっているのか混乱してしまい、 次に事前の求償権がでてきて求償権全体がわからなくなり、その後予備校のテキストで 「460条は委任事務処理費用の前払い請求権に準じている」とあるのを見て「委任?」 と全体のつながりがどんどん整理できなくなってしまいました。
■説明・ その2 ――連帯債務・保証・連帯保証の関係
まず、連帯債務、保証・連帯保証の関係について説明いたしますと、連帯債務と保証・ 連帯保証は基本的には別物と考えて良いと思います。
つまり、連帯債務は「連帯債務」という種類に分類される債務であり、単純保証債務・連帯保証債務は「保証債務」 という種類に分類される債務です。
正確な定義を紹介いたしますと、下記のとおりです。
「連帯債務とは、複数の債務者が各自、債務者に対し同一の給付へと向けられた債務を負担していて(全部給付義務)、 そのうちの一人が給付をすればすべての債務者が債務を免れるという関係にあるもののうち、 各債務者の債務が主観的な共同目的で結びつけられているもの」を言います(潮見佳男『プラクティス民法 債権総論』〔信山社、2004年〕 391頁)
保証債務とは、 「主たる債務の履行を担保することを目的として、債権者と保証人との間で締結された契約により成立する債務」であり、 「主たる債務の履行がない場合において保証人が保証債務の履行をすることを、その内容とする」債務を言います (潮見・ 前掲書420頁)。
「連帯保証とは、保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担する場合」を言います(潮見・前掲書461頁)。
そして、連帯債務と保証債務、連帯保証債務の異同については我妻先生のご説明がございますので、やや長いですが、引用させて頂きます。
連帯債務と保証債務は「債権者が各債務者に対して給付の全部を請求する権利を有するが、 一人の債務者が弁済するとその範囲において全債務者の債務を消滅させる点」で共通している。
しかし、 保証債務は「多数の債務の間に主従の別があり、従たる債務が主たる債務と運命を共にする点(附従性)においてこれ (引用者注: 連帯債務)と異なるものである。そして、 この従たる債務を特に保証債務という。保証債務には、更に主たる債務者に資力がないために弁済されない場合にだけ弁済すべき性質(補充性) を有するものと、そうでなく、主たる債務者の資力の有無に関係なく弁済すべきものとがある。前者を普通の保証債務といい、 後者を連帯保証債務という。後者は連帯債務に似ている。」(以上につき、我妻栄『新訂 債権総論』〔岩波書店、1964年〕 378頁以下)。
我妻先生が仰るように、連帯保証債務と連帯債務は似ています。「連帯」という単語も同じです(^_^;)。
ですが、やはり両者は異なりまして、前者は保証債務であり、後者は特殊な債務です(一定の「主観的共同目的」に貫かれた債務です)。
■説明・ その3 ――460条の性質
くまころさんが御覧になった予備校のテキストには、「460条は委任事務処理費用の前払い請求権に準じている」 と書かれていたそうです。
そして、この記述は――準じているという表現がやや気になりますが――正しいものです。
即ち、委託を受けた保証人の事前求償権(460条)は、受任者の費用前払請求権(649条) の特則です。
460条の「委託」を「委任」と言い換えれば分かりやすくなるかもしれません。
そして、このように言い換えて構いません。
何故ならば、保証を委託するということは、委任そのものだからです。
※ 委任とは、法律行為を為すことを委託する契約を言います。
例えば、主債務者Sが債権者Gに100万円の金銭債務を負っており、その債務を保証してもらうために、主債務者Sが、 Gとの間で保証契約を締結してくれるようにBに頼み、Bが承諾したとします。
これは、保証契約締結という法律行為を為すことについて、SB間で契約(委任契約)が締結されたことを意味します。
このとき、BがGとの間で保証契約を締結すれば、Bは委託を受けて保証契約を締結した保証人、即ち、委託を受けた保証人になります。
G
|
↓
S ――委託―― B
そして、条文を見てみますと、以下のようになっています。
(委託を受けた保証人の事前の求償権) 460条柱書
保証人は、 主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、次に掲げるときは、主たる債務者に対して、あらかじめ、求償権を行使することができる。
(受任者による費用の前払請求) 649条
委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、 その前払をしなければならない。
先程、申しましたように、委託を受けた保証人Bは受任者ですので、本来であれば649条が適用されるはずです。
つまり、保証人Bは、委託を受けた直後から、主債務者Aに費用(100万円)の前払いを請求できるわけです。
ですが、これでは保証契約の意味がありません。
主債務者Sは、保証人Bをいわば"味方"にするために委託をしたわけです。
言い換えれば、「自分と一緒に債権者Gと戦おう!」とBにお願いし、Bは「よし、戦おう!」と承諾したわけです。
それにもかかわらず、保証人B「よし、戦おう! ……じゃあ、とりあえず俺に100万円前払いしてくれ」 ではお願いの意味がありません。主債務者Sにしてみれば、これでは"味方"どころか"敵"が増えたようなものです。
そこで、民法は、保証を委託した場合には受任者たる保証人の649条の行使可能時期を遅らせることにする、という方針を採用しました。
それが、460条です。
したがいまして、460条は649条を"修正"した特則であり、「460条は委任事務処理費用の前払い請求権に準じている」 ということになります。
……やたら長文になってしまいました。申し訳ありません。
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コメント
いつも楽しく拝読させていただいています。
本記事の460条についての噛み砕いた解説は、
とても分かりやすく、記憶に残るものでした。
ありがとうございました。
投稿: 新司受験生 | 2008年3月 7日 (金) 09:09
非常にわかりやすく丁寧な解説ありがとうございました。
自分がなぜ混乱してしまったのかその原因(思考回路?)にも気付いたように思います。そして460条の解説とても楽しかったです。
お時間をいただいたこと、知識をいただいたことに感謝致します。ありがとうございました。
投稿: くまころ | 2008年3月 7日 (金) 11:05
たびたび申し訳ございません。今思い出したのですが、混乱してしまった時、
①不動産登記法の「保証委託契約による求償権のために抵当権の設定」
↓
②民法の保証、連帯債務についての順で勉強していました。
将来の求償債権について抵当権が設定されている場合はどのように考えればよいのでしょうか。
とても初歩的な質問ばかりで本当にすみません
投稿: くまころ | 2008年3月 7日 (金) 14:40
新司受験生さん、コメントありがとうございます。
拙稿がお役に立ったのであれば幸いです。
試験も近いですが、どうぞ、お体に気をつけて
ご邁進ください。
投稿: shoya | 2008年3月 8日 (土) 12:20
くまころさん、コメントありがとうございます。
「将来の求償債権について抵当権が設定されている場合は
どのように考えればよいのでしょうか。」とのことですが、
これは、処理方法についてのご質問でしょうか?
お手数ですが、質問のフォローをして頂ければ幸いに
存じますm(__)m
投稿: shoya | 2008年3月 8日 (土) 12:22
お返事ありがとうございます。
この場合は保証からではなく抵当権から
考えて処理してしまってよいのかが疑問
でした。
うまく説明できずに申し訳ありません。
先日の記事を何度も読ませていただき、
その後もさまざまなことを学びました。
本当に貴重なお時間をいただきまして
ありがとうございました。
投稿: くまころ | 2008年3月10日 (月) 12:04
くまころさん、コメントありがとうございます。
ご質問内容を私が正確に理解できているかどうか
自信がないのですが、もし、物上保証人の事前求償権
のことでしたら、抵当権設定契約の性質から考える
方法が一般的です。
つまり、物上保証人は抵当権を設定するという
法律行為を託されています(委任契約)。
ところが、この委任契約は抵当権を設定した段階で
既に履行が完了してしまいます。
したがいまして、物上保証人が成立すると同時に
履行が完了してしまいます。
そのため、事前求償権を観念することはできない、と
一般には考えられています。
投稿: shoya | 2008年3月11日 (火) 07:57
ありがとうございます。
物上保証人について、今回ご指導いただいた内容は全く理解しておりませんでした。
拝読させていただいて「そうか・・・そうだったんだ」と。自分の考えがいかに浅かったかということに気付きました。
先日ご質問させていただいた時は保証人について考えておりました。
①BがAから金銭を借り受け→②Bはこの債務についてCが保証人になることを委託する契約を締結 同時に保証債務を履行した際にBに対して行使することになる求償債権を担保するため抵当権設定→③A、C間で保証契約 という内容です。
この場合、求償権を行使する場面では抵当権の実行となり、求償権を必要とすることはなくなるのだろうかと疑問に思いました。
いつもきちんとご説明できなくて申し訳ありません。
お忙しいところ、こんなにお時間をいただいてよいのだろうかと気がかりです。睡眠時間を短くしてしまったのではないでしょうか・・・またお時間がございましたらご指導お願い致します。昨日、不法行為の記事から新たに学びました。再度問題にチャレンジしてみます。
ありがとうございました。
投稿: くまころ | 2008年3月11日 (火) 11:56
くまころさん、コメントありがとうございます。
仰っている問題設定ですと、抵当権による優先的な債権回収が
可能ですので、確かに、求償権そのものを行使する必要性は
低くなっていると思います。
ですから、その意味で求償権は"不要"と言うことは可能だと
思います(^_^)。
投稿: shoya | 2008年3月13日 (木) 08:15
お返事ありがとうございます。
とても勉強になりました。私のつたない質問に最後まで向き合ってくださり、解決に導いていただいたことを本当にありがたく思います。
ご指導いただいた内容はとても心に残りました。日々記憶との戦いですが、今後忘れることはないと思います。
これからも、さまざまな記事楽しみにしております。
本当にありがとうございました。
投稿: くまころ | 2008年3月13日 (木) 14:18