【刑訴】 訴因変更についての覚書・その4
今日は、兵卒さんのブログでご紹介いただいた、訴因変更の可否(非両立性基準)についての補足を。
拙稿: 【刑訴】 訴因変更についての覚書・その1
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/07/post_cc2c.html
拙稿: 【刑訴】 訴因変更についての覚書・その2
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/07/post_9486.html
拙稿: 【刑訴】 訴因変更についての覚書・その3
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/post_27c7.html
■条文
刑事訴訟法 第312条1項
裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。
■定義
覚書・その3ではほとんど言及しませんでしたが、訴因変更の可否についての非両立性基準とは、「公訴事実の同一性」(312条1項)の有無を非両立性の有無によって決する見解のことを言います。
そして、「非両立性」の意義については争いがありますが、
「1回の刑事手続により一度だけ処罰すれば足りるという意味での両立し得ない関係」(酒巻匡「公訴の提起・追行と訴因(4)」法学教室302号65頁)
「法律上両立することのない関係」(佐藤文哉「公訴事実の同一性に関する非両立性の基準について」『河上和雄先生古稀祝賀論文集』〔青林書院、2003年〕267頁)
「別訴で同時に有罪とすることが二重(多重)処罰の実質をもつ場合」(大澤裕「公訴事実の同一性と単一性(下)」法学教室272号87頁)
などと定義されます。
■根拠
この非両立性基準は、主として下記の5つの最高裁判例の分析を基に主張されています。
(1) 最判昭和29年5月14日刑集8巻5号676頁
(2) 最判昭和33年5月20日刑集12巻7号1416頁
(3) 最判昭和34年12月11日刑集13巻13号3195頁
(4) 最決昭和53年3月6日刑集32巻2号218頁
(5) 最決昭和63年10月25日刑集42巻8号1100頁
そして、この非両立性基準は、以下の現行法の仕組みをベースに主張されています。
(1) 現行法は、訴訟の1回性を要求している(∵二重処罰禁止の原則&一事不再理の原則)。
(2) 現行法は、二重処罰を禁止している。
(3) 現行法は、手続保障の観点から、1個の訴訟に1個の刑罰権しか予定していない。
(4) 現行法は、このように刑罰権の1回性を要求する一方で、訴因変更による同一訴訟内での審判対象の変更を許容している。
つまり、
現行法が「……訴訟内での決着を許容し、反面で別訴での処理を認めない趣旨は、1つの刑罰権について複数の実体判決が下されることを回避するための確実な仕組みを用意しておくことである。そこで、別訴による複数の実体判決を下すことが、1つの刑罰権についての多重評価となって許されない関係にある訴因の間では、公訴事実の同一性を認めるべきである。そこで、別訴で同時に有罪とすることが二重処罰の実質を持つ場合、あるいは訴因と訴因とが1回の刑事手続内において、どちらか一方で一度だけ処罰すれば足りる両立し得ない関係にあるというのであれば、公訴事実の同一性を肯定すべきであるということになる。」(長沼範良=池田修「覚せい剤使用罪の訴因の特定」法教322号101頁〔長沼発言〕)
ということです。
■注意点
第1の注意点は、非両立性が認められることによって「公訴事実の同一性」が認められる場合とは、新訴因と旧訴因が実体法上「一罪」の関係(含・科刑上一罪)にある場合に限られないということです。
上記のように、非両立性基準は、二重処罰の禁止の観点から訴因変更の可否を決する見解です。
したがいまして、訴因変更が許される場合とは、現訴因と新訴因が実体法上「1個」の罪と扱われる関係にある場合です。
そして、実体法上「1個」の罪と扱われる関係には2つの類型があります。
すなわち、実体法上一罪(含・科刑上一罪)の類型(犯罪としては複数成立するが実体法上一罪だから両立しない場合)と、択一関係の類型(犯罪自体が実体法上いずれか一方しか成立しないから両立しない場合)です。
前者の類型がいわゆる単一性が認められる場合であり、後者の類型が、いわゆる狭義の同一性が認められる場合です。
第2の注意点は、非両立性とは法律上の非両立性を意味している、ということです。
すなわち、「公訴事実の同一性」という概念は、別訴による二重処罰の危険を回避するための道具概念である以上、そこで問題とされるべきは実体法上の刑罰権の非両立性、つまり法律上の非両立性です。
証拠に基づく事実認定上の非両立性を意味するものではありません。
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