【余談】 春から法学を学ぶ人が読んでも良いかもしれない23冊・その1
春、ということで、「2008年度の新社会人が読んでおくべき12冊」 などがブログに限らず、雑誌等でも特集されています。
と言うわけで、当ブログでも便乗してみました(^_^;)。
題して、「春から法学を学ぶ人が読んでも良いかもしれない23冊」です(但し、あくまで「かもしれない」ですので… …)
今回は、「その1」として、憲法・民法の書籍を10冊、ご紹介いたします。
尚、法学一般の優れた入門書としては、道垣内正人先生の (後出の道垣内弘人先生のお兄様です) 『自分で考えるちょっと違った法学入門』(有斐閣、第3版、2007年)がお薦めです。
■憲法
入門書 : 長谷部恭男『憲法と平和を問いなおす』 (筑摩書房、ちくま新書465、 2004年)
本書は、東京大学教授の長谷部先生が書かれた新書です。
タイトルに「憲法」と「平和」の単語が入っているので、一瞬、思想系の書籍のようにも思えますが(笑)、内容は違います。
むしろ、一般論として――つまり日本国憲法に限らず――およそ憲法とはどのようなものか、いかなる機能を果たすものなのかについて、 平易な言葉で説明されています。
そして、その上で、憲法で対処できる事項について説明していきます。民主主義で処理可能な事項とそうでない事項とは何か。 公と私とは何か。
この辺りになると長谷部先生のご見解が時折顔を出しますが、初学者でも知っておいて損は無いご見解ですのでご安心を。
これを読んだからと言って、学生の方が試験で良い点数がとれるようにはならないと思いますが(笑)、 憲法について地に足のついた議論をしたいのであれば、読んでおくべき本だと思います。
類書として、同じく長谷部先生が書かれた『憲法とは何か』(岩波書店、岩波新書・新赤版1002、2006年)もあります。
教科書 : 高橋和之『立憲主義と日本国憲法』 (有斐閣、 2005年)
東大名誉教授の高橋和之先生の『立憲主義と日本国憲法』は、タイトルからすると論文集のようですが(笑)、 内容は真っ当な憲法の基本書でして、後述する芦部先生の『憲法』の後継本と言っても良いのではないでしょうか。
高橋先生の本は、この分量の書籍の中では最も優れた"教科書"の1つだと思います。
但し、完全な"教科書"というわけではありません。
有名判例の紹介がたまに抜けていたり、ところどころに自説が登場したり、統治の部分の記述が薄かったりします。
ですが、これは教科書の記述として、敢えて濃淡をつけたのではないか、と私は理解しています。
教科書として大切なことは、全ての知識を体系的・網羅的に教授することはではなく(それは体系書やコンメンタールの役割です)、 必須の基礎知識とその科目の原理的な思考方法を教授することにあると、私は思います。
その意味で、高橋先生の『立憲主義と日本国憲法』は非常に優れた書籍だと思います。
尚、憲法の教科書と言えば、従来、東大名誉教授の故・芦部信喜先生(高橋和之補訂)の 『憲法』 (岩波書店、 第4版、2007年)が定番でしたが、敢えて外しました。
芦部先生の本は、確かに、今でも名著だと思います(したがいまして、憲法を本格的に学ぶのであれば必読です)。
しかし、芦部先生の本は、最初に読む本としては言葉が圧縮され過ぎだと思います。
芦部先生の本はいわゆる「行間を読む」本、要するに、充分な知識と理解を有する読者だけがその内容を十全に理解できる本だと思います。
芦部先生ほどの博覧強記の方が、あれだけの分量しか書かなかったことを踏まえると、書かれている文章内容の他に、 敢えて書かれなかった部分にも思いを致して、初めて同書の内容を良く理解できるのではないかと思います。
類書としては、情報量が多く辞書としての利用に適している、野中俊彦ほか『憲法1』『憲法2』 (有斐閣、第4版、2006年)があります。
■民法
入門書 : 我妻栄(遠藤浩=川井健補訂)『民法案内1 私法の道しるべ』(勁草書房、 2005年)
入門書 : 道垣内弘人『ゼミナール民法入門』 (日本経済新聞社、第4版、 2008年)
戦後民法の礎を構築した民法の大家・我妻栄先生の『民法案内1 私法の道しるべ』については、以前、 その内容の一部を拙稿で紹介させていただいたことがございますので、そちらをご覧ください。
拙稿: 【余談】
我妻栄先生の勉強の仕方
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/post_6722.html
道垣内先生の『ゼミナール民法入門』は、残念ながら全くの初学者向けではありません。
つまり、およそ民法を学んだことのない方が同書を読み進めるのは若干辛い部分があると思います。
ですが、多少なりとも民法の知識がある方(意思表示の意味や契約や物権という言葉の意味をご存知の方)であれば、是非、 同書の一読をお薦めいたします。
今までの民法の入門書は、淡々と制度の説明をしていくだけの無味乾燥な内容であることが多かったのですが、道垣内先生の 『ゼミナール民法入門』は、軽妙洒脱な文章とコラムで”面白く”読み進めることが可能です。
尚、民法をこれから勉強し始めようという方には、数ある基本書の中でも、特に佐久間毅『民法の基礎1 総則』 (有斐閣、第3版、2008年)をお薦めいたします。
民法総則では、民法を支える基礎事項や根幹概念を学ぶわけですが、佐久間先生の同書では、 その基礎事項が丁寧に丁寧に解説されています。
そして、同書には適切な事例が多数掲載され、その処理方法――要するに答え――についても先生の丁寧な解説が為されています (ですから、同書は独学向きでもあります)。
同書をじっくりと腰を据えて読み進めていけば、民法の基礎力が知らず知らず向上していくものと考えられます。
そして、この基礎力の差は、必ず、数年後に現れます。基礎は決して蔑ろにしてよいものではありません。
つづく
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