【民訴】 既判力の作用の基礎
今日は、以前、質問を受けたので、既判力の作用の仕方について、簡単に一言。
ごくごく基本的なことなので、目新しいものは何もありませんが……。
■問題
Aが、Bにガソリンを販売したが、Bが代金を支払わなかったので、Aが売買代金支払請求訴訟を提起した。
ところが、Bは、錯誤無効を主張し、これが認められたため、Aの請求は棄却された。
そのため、Aは、上記売買契約の無効を理由としてガソリンの不当利得返還請求をしたところ、Bは上記売買契約の締結の事実を主張し、 「法律上の原因」の存在を主張した。
この場合、前訴の判決効は後訴でどのように作用するか?
■定義
既判力とは、「確定判決の判断に与えられる通有性ないし拘束力」 をいう(高橋宏志『重点講義 民事訴訟法 上』〔有斐閣、 2005年〕520頁)。
■説明
結論から言うと、伝統的な考え方に従う限り、上記前訴の既判力は後訴に及びません。
何故ならば、
「後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と同一である場合、後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と矛盾対立関係にある場合、 後訴の訴訟物が前訴の訴訟物を先決関係として定まる場合」(前掲・高橋527頁)
に当たらないからです(上記設例は矛盾対立関係ではないので注意)。
つまり、既判力論について伝統的な立場で考えるのであれば、まず、同一関係、矛盾対立関係、 先決関係の有無を考える必要があります。
そして、これらの関係が認められないのであれば、既判力は及ばない、という結論になります。
換言すれば、伝統的見解は、上記設例に潜むような問題を既判力で処理すべきではない(=別の箇所で処理すべき)と考えています。
学生の方が書かれる答案でも、上記設例の問題を解決するために既判力概念自体を修正するのは”危険”かもしれません (そのような修正を要求する問題は少ないでしょう)。
既判力の後訴での作用を考えるに際しては、上記の3つの関係に当たるか否かという点を淡々と、しかし堅実に検討・処理し、 その上で問題解決を図るべきでしょう。
尚、上記設例の問題点は、信義則や争点効などで処理することになります。
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