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2008年7月27日 (日)

【民法】 平成20年旧司法試験 第1問小問1 参考解答例?

 

※ 文意がとりにくい不適切な記述が一部ございましたので、加筆・訂正致しましたm(v_v)m。

 

今年の旧司法試験の民法第1問・小問1の参考解答例を作成してみました(長くなりすぎましたので、小問2は別稿で掲載させて頂きます)。

 

とは言え、あくまで「参考」に過ぎないものですし、完璧な答案であるとは到底言えません。

 

そもそも、本当に学生の方や受験生の方の参考になるかも疑わしいものです。間違いがどこに潜んでいるか分かりません。その点を踏まえられた上でご笑覧下されば幸いに存じます。

 

尚、以下の解答例では、参考のために過剰な論証がしてあります。したがいまして、実際の答案でこのような長々とした論証をする必要はございません。

 

司法試験をはじめとする各種試験で必要なことは、自分が知ってることを書き出すことではなく、問題解決に必要十分な記述を展開することです。その観点から致しますと、下記解答例は大変低い評価になるものと考えられます(笑)。

 

 

 

■問題

Aは,工作機械(以下「本件機械」という。)をBに代金3000万円で売却して,引き渡した。この契約において,代金は後日支払われることとされていた。本件機械の引渡しを受けたBは,Cに対して,本件機械を期間1年,賃料月額100万円で賃貸し,引き渡した。この事案について,以下の問いに答えよ。

 

1  その後,Bが代金を支払わないので,Aは,債務不履行を理由にBとの契約を解除した。この場合における,AC間の法律関係について論ぜよ。

(小問2は省略)

 

 

 

■解答例

第1 小問1について

1.AのCに対する請求

本件Aは、AB間の売買契約を解除して、同契約からの解放を望んでいる。とすれば、AはAB間の売買契約が無かったならば存在するはずの状態への復帰を望んでいるものと考えられる。

 

したがって、Aは、Cに対して、本件機械についての所有権に基づく物権的返還請求権(明文なし。但し、202条「本件の訴え」参照)、および、本件機械の利用料金についての不当利得返還請求権(703条)を行使するものと考えられる。

以下、それぞれ、検討する。

 

 

2.AのCに対する所有権に基づく物権的返還請求権について

AがCに対して所有権に基づく物権的返還請求権を行使するための要件は、(1)Aが本件機械の所有権を有していること、(2)Cが本件機械を占有していること、である。

そして、本件ではCが本件機械を占有している。したがって、(2)の要件を満たす。

 

(1)Aが本件機械を所有しているかについて
では、Aは、(1)の要件を満たすか。

 

ア.売買契約における所有権移転時期について
(ア) 本件Aは代金後日払いの特約の下で本件機械をBに売却しているものの、BC間の賃貸借契約成立後、AB間の契約を解除(545条)している。では、そもそも、Aは代金後日払い特約が付された本件売買契約で本件機械の所有権を失っているのか。売買契約における所有権移転時期が、不明確であるために問題となる。

 

(イ) この問題について、176条は「当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」としている。とすれば、文理上、売買契約における所有権移転時期は原則として当事者の意思によって契約の効力が生じた時点、即ち、契約の成立時であると考えられる。また、このように解しても、特約という形の意思表示による修正の余地がある以上、問題は無いと考えられる。

 

(ウ) 本件では、代金こそ後日支払いをする旨の特約があるものの、所有権移転時期に関する特約は無い。したがって、所有権移転時期は、原則どおり契約成立時であると考えられる。よって、Aは、本件売買契約で本件機械の所有権を失っている。

 

イ.解除の効果について
(ア) 本件Aは、BC間の賃貸借契約成立後、AB間の売買契約を解除している。では、Aは、本件解除によってAB間の売買契約が遡及的に無効になり、本件機械の所有権を遡求的に取得したと言えるか。解除の効力について明文が無いために問題となる。

 

(イ) 620条は賃貸借契約の解除について、特に将来効である旨を示している。とすれば、同条の反対解釈として、解除は一般的に遡及するものと民法は予定している考えられる。したがって、契約が解除されると、同契約は遡及的に無効になると考えられる。

 

(ウ) 本件では、AB間の売買契約が解除されているので、Aは、AB間においては、遡及的に本件機械の所有権を取得したと言える。

 

ウ.Aが所有権をCに主張できるかについて
(ア) 本件では、AB間の売買契約解除前に、Bが本件機械をCに賃貸している。では、Cは「第三者」(545条1項ただし書き)に当たり、AはCに解除に基づく遡及的所有権取得を主張することはできないのではないか。「第三者」の意義が不明確であるために問題となる。

 

(イ) 上記のように解除の遡及効を認める私の立場からすれば、本条の趣旨は、解除に基づく遡及効によって第三者の利益が害されることを防止する点にあると考えられる。とすれば、「第三者」とは、解除にされた契約の効果について解除前に新たに利害関係を有するに至った者を言うと考えられる。もっとも、解除権者には取消権者と異なり帰責性が認められないので、解除権者保護の見地から、「第三者」と言うためには、権利保護要件の具備が必要であると解する。

 

(ウ) 本件Cは、AB間の売買契約解除前に、BC間で賃貸借契約を締結している。したがって、解除前に本件機械について賃借権という利害関係を有するに至っていると言える。

しかし、Cは、本件賃貸借契約について権利保護要件を具備していない(現行民法は動産賃貸借契約の権利保護要件を用意していない)。したがって、Cは「第三者」に当たらないので、Aは、Cに解除に基づく本件機械所有権の遡及的取得を主張することができる。

 

以上より、Aは(1)Aが本件機械の所有権を有していること、という要件を満たす。

 

 

(2)抗弁について

ア.対抗要件の抗弁について
Cは対抗要件の抗弁(178条)を主張して、解除による復帰的物権変動に基づくAの所有権取得を否定することはできない。理由は以下のとおりである。CはAとの関係では遡及的に自己の占有権原を失っている以上、CはAとの関係では無権利者である。したがって、Cは「引渡し」の欠缺を主張するにつき正当な利益を有しておらず、「第三者」に当たらない。

 

イ.留置権の抗弁について
Cは、Aから所有権に基づく物権的返還請求権の行使を告知された時点で、CのBに対する賃借権が履行不能になったとしてBに対する損害賠償請求権(415条)を取得する。そのため、Cは留置権の抗弁(295条以下)を主張するとも考えられる。しかし、同債権と本件建物の間には牽連性が認められないので、留置権は成立しない。

 

 

(3)結論

以上より、AのCに対する本件機械についての所有権に基づく物権的返還請求権は認められる。

 

 

3.不当利得返還請求権について
(1) 本件Aは、Cとの関係において遡及的に所有者たる地位を回復しており、Cが本件機械を使用していた間も所有者であったと評価される。では、Aは、Cが本件機械を不当に使用していたとして不当利得返還請求(703条)をすることができるか。

 

(2)Cが賃料を全てBに支払っていた場合
この場合、Cは「他人の財産……によって利益を受け」たとは言えない。よって、AのCに対する不当利得返還請求をすることはできない。本件機械の使用に関しては、AB間の原状回復義務の履行として処理されるべきである(545条2項参照)。

 

(3)Cが賃料の一部、または全部をBに支払っていない場合
この場合、Cは「法律上の原因」無くして、Aの所有物である本件機械を利用し、その「利益」を享受したと言える。そして、この利用行為によって本件機械の損耗などの「損失」をAに与えたと言え、Cの利益とAの損失の間には因果関係が認められる。よって、Aは、不当利得返還請求をすることができる。

 

つづく

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学問・資格」カテゴリの記事

コメント

いつも拝見しています。
この問題について,質問があります。
Cの抗弁についてなのですが,占有正権原の抗弁は成り立たないのでしょうか?
①BC間の賃貸借契約はありますし,②基づく引渡しもあります。
しかし,AがAB間の売買契約を解除することによって,遡及的にBC間の賃貸借契約が他人物賃貸借となります。
そして,AがCに対して返還請求した時点で,BC間の他人物賃貸借が当然に終了してしまうので,主張自体失当になると考えたのですが,どうなのでしょうか?

投稿: 通りすがり | 2008年10月14日 (火) 10:37

通りすがりさん、コメントありがとうございます。

ご質問にお答えするのが遅くなり、申し訳ございません。

答え(考え方)は、大きく分けて2つ存在するのではないかと思います。

第1は、上記拙稿のように賃貸借契約に対する178条の類推適用を否定する見解に立った場合の答えです。
この場合、Cは、「第三者」(545条1項ただし書)に当たりません。この場合、そもそも、CはAとの関係では無権利者になります(他人物賃貸借)。したがいまして、結果的に占有正権原の抗弁は認められません。主張自体失当かどうかは、形式的には主張の順序に左右されると思います(実際の訴訟では原告側が一気に主張立証するので、主張自体失当になる可能性が高いと思います)。

第2は、賃貸借契約に対する178条の類推適用を肯定する見解に立った場合の答えです。
この場合、Cは、対抗要件(権利保護要件)を具備していますので、「第三者」(545条1項ただし書)に当たります。したがいまして、BC間の賃貸借契約はAとの関係でも有効になります。そして、状態債務論を動産にも敷衍するのであれば、Aは賃借人の地位を承継します。したがいまして、占有正権原の抗弁を主張することは可能になります。

ざっと考えるとこのようになるのではないかと思います。

とは言え、大雑把な検討ですので、もし何か間違い等があればご指摘くださいm(v_v)m

投稿: shoya | 2008年10月19日 (日) 19:26

申し訳ありません、上記コメントに誤字がございましたので、訂正いたします。

(誤)状態債務論を動産にも敷衍するのであれば、Aは賃借人の地位を承継します

(正)状態債務論を動産にも敷衍するのであれば、Aは賃「貸」人の地位を承継します

投稿: shoya | 2008年10月19日 (日) 19:28

大変遅くなりました。
難しいですね。本番では完全に書けないレベルです。
ありがとうございました。

投稿: 通りすがり | 2008年10月23日 (木) 21:44

いつも大変勉強になる記事をありがとうございます。
一つ質問よろしいでしょうか?
不当利得返還請求権についてなのですが、これは給付利得、侵害利得どちらになるのでしょうか?(答案では類型論の立場ではないようですが)
また他稿でとっておられた解除の性質について、原契約変容説の立場からだと資格試験はむずかしいのでしょうか?自分はこちらに魅力を感じるのですが。

時間があればで結構ですのでよろしくお願いします。

投稿: いの | 2009年1月29日 (木) 14:57

いのさん、コメントありがとうございます。

まず、給付利得か侵害利得かという点につきましては、
侵害利得に当たるのではないかと私は考えております。

ただ、類型論は未だに見解の一致を見ておらず、給付
利得や侵害利得の定義は論者によって異なると思いま
す(特に概念の外延が不明確です)。

ですから、定義次第では違う結論に達すると思います。

また、本問のように多数当事者が登場する場合の処理
を「契約清算的」にするか「侵害利得的」にするかは
立場が分かれるところです(詳細は藤原正則先生の
『不当利得法』などをご参照ください)。

次に、原契約変容説についてですが、一般論として試
験で用いることはお薦めいたしません。
なぜならば、試験では、多数の受験生が採用する見解
の方が無難に採点されるからです。

試験で高得点をとるor合格するという観点から冷徹に
判断いたしますと、いわゆる「判例・通説」の見解を
採用した方が”効率的”に点数を得られるのではない
かと存じます。

試験と論文は異なります。試験では、どうすれば高得
点を得られるかという点に焦点を定めた方が受験目的
の実験に適うのではないかと思います。

投稿: shoya | 2009年1月30日 (金) 18:54

丁寧にご返答ありがとうございました。自分は試験というものの性質についてあまり考えていませんでした。目からうろこが落ちました!!

投稿: いの | 2009年1月31日 (土) 02:34

この記事へのコメントは終了しました。

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