« 【余談】 Interesting News : July 10. 2008 | トップページ | 【余談】 Interesting News : July 14. 2008 »

2008年7月11日 (金)

【法律学の基礎】 法的知識を記憶する場合の4つのポイント

 

今日は、法的知識を記憶する場合のポイントについて、一言。

 

と言っても、私は理系出身の科学者ではございません。

あくまで市販されている書籍の記述を基に、法律学の勉強をする場合の記憶の仕方について、一言申し上げるだけです(^_^;)。

 

関連する拙稿: 【法律学の基礎】 答案の書き方
http://etc-etc-etc.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_1ef9.html

 

 

 

■01.理解してから記憶する

法律学は膨大な知識を必要とする学問です。

 

条文や制度に始まり、判例、通説、有力説、少数説、特殊概念など様々なことを覚えて初めて現実の紛争に立ち向かっていくことができます。

 

法曹になろうと思うのであれば、このような作業を少なくとも6科目について行う必要があります。

そして、抜群の記憶力を誇るごく一部の方を除いて、この6科目分の量の情報を記憶することは容易ではありません。

 

※ 余談ですが、私の高校時代の先輩にこの例外の方がおられました。全国的に見ても極めて優秀な能力の持ち主で、高校時代のほとんどの授業の黒板記載事項を思い出すことができると仰っていました。案の定、東大3回生のときに1発で司法試験に合格されていました。丙案が存在する以前のお話です。

 

そのため、法律学の先生方は、しばしば「丸暗記するのではなく理解して記憶すべき」と指導されます。

また、我妻先生も、勉強をする際には繰り返しよりも理解に重点を置かれていたようです

 

この「理解して記憶する」という方法の重要性は科学的にも裏付けられているようでして、東大の池谷先生は次のように述べられています。

 

「歳をとって、エピソード記憶が発達してくると、丸暗記よりも、むしろ論理だった記憶能力がよく発達してきます。ものごとをよく理解して、その理屈を覚えるという能力です。当然、勉強方法もそうした方針に変えていく必要があります。この努力を怠ると、もはや効率的な学習はできません。」(池谷裕二『記憶力を強くする』〔講談社、ブルーバックスB-1315、2001年〕190頁。尚、引用文の太字部分は、原典では傍点部分)。

 

エピソード記憶 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%94%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%89%E8%A8%98%E6%86%B6

勉強法完全攻略!
http://www.progrise.com/s-memory.html

 

 

この理解して記憶するという作業で重要な部分は、もちろん、理解するという箇所です。

 

ですから、記憶をする際には、ご自分がそこを理解しているかどうかを確認することが重要ではないと思います。

 

ご自分が理解しているかどうかを確認する方法としては、東大の道垣内弘人先生が以前仰っていたことですが、

 

「その記憶事項について何も知らない人(素人)に1から説明できるか」

 

を確認されてみてはどうかと思います。

 

例えば、大学の先生になったつもりで、ご自分の頭の中で仮想授業をしてみてはいかがでしょうか。下らない方法かもしれませんが、個人的には案外有効な方法だと思っております。

 

 

 

■02.使える記憶としてインプットする

法律学の知識をインプットするための方法には様々なものがあります。

授業での先生のお話を記憶する、基本書の記述を記憶する、ゼミでの議論を記憶する……など、色々あります。

 

ですが、それらの情報を実際に用いることができなければ、記憶するという作業の意味は半減してしまいます

 

例えば、基本書を読んで当該論点を理解したとしても、記憶していなければ意味がありません。

 

■01.で述べたことと矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、 理解することと記憶することは次元の違う話です

 

例えば、人は誰しも日常会話において相手の発言の意味を理解しています。

ですが、では、相手の発言内容を常に正確に記憶しているか? と問われれば、そうではないと思います。

 

「私たちの脳は、見た情報、聞いた情報をとりあえずすべて記憶するようにできています。そのため、覚えたつもりのないことでも、同じ情報をもう一度みたとき、聞いたときに、『あ、これ知っている』と分かったり、ふとした拍子にそれを思い出したりする。ところが、意識的に脳に入力されていない情報は、思い出したいときに思い出すことができません。つまり、自分の記憶でありながら、自由に使える記憶にはなっていないのです。」(築山節『脳が冴える15の習慣』〔日本放送出版協会、 2006年〕113頁)。

 

したがいまして、基本書などで情報に接した場合には、 記憶するという作業を意識的に行う必要があります

 

 

そして、その場合の記憶は、「使える」形にしておくべきです。

この記事をご覧になっている方は学生の方が少なくないと思いますが、学生の方に即して言えば、試験で「使える」記憶になっていない記憶は、その有用性を著しく失います。

 

どのような形が、自分にとって「使える」ものかは人それぞれですが、典型的なものとしては、いわゆる論証カードというものがあります。

 

論証カードは、予備校教育の弊害のように言われていますが(それを否定しがたい面も勿論ありますが)、その主たる弊害は、思考を停止して闇雲に記憶に走ってしまうという点にあります。

 

自己の理解を表現しやすい形(=使える形)で記憶するために論証カードを用いることは、効率的な方法の1つだと私は考えています。

 

築山先生も次のように仰っています。

 

「また、会議が終わった後には、内容を自分なりにまとめ、メモ程度にでも書いておくといいでしょう。使える記憶になりやすくなります。」。

 

「レジュメなどを見れば概要は書いてあると言っても、それはあくまで他人の脳の中にある言葉です。他人の知識を自分のものにするには、書いたり話したりして、自分で出力する機会をつくる必要があります。」(以上につき、前掲・築山119頁)。

 

 

 

 

■03.睡眠を挟む

現在の脳科学によれば、睡眠には次のような効能があるそうです。

 

「現在の脳科学の見解によれば、夢は情報を整え、 記憶を強化するために必須な過程であるとされています。記憶は夢を見ることで保存されるのです。つまり、寝ることは、ものごとをしっかり覚えるための大切な行為なのです。」(前掲・池谷212頁。引用太字部分は、原典では傍点部分)。

 

「さまざまな記憶データをニューロンのネットワークに織り込むという作業は睡眠中に行われ、それが睡眠の役割の1つだとも言われている。」(Tom Stafford,Matt Webb『Mind Hacks ――実験で知る脳と心のシステム』〔オライリー・ジャパン、2005年〕346頁

 

そうであれば、この睡眠を学習に利用しない手はありません。

池谷先生は、このことを端的に指摘されています。

 

「一日に六時間まとめて勉強するくらいなら、二時間ずつ三日に分けて勉強したほうが、途中に睡眠が入るため能率的に習得できるということです。」(前掲・池谷213頁)。

 

 

そして、この睡眠による記憶を効率的に利用するためには、睡眠前に必ず行う作業の過程で情報に触れるようにするべきです。

 

例えば、就寝前に歯を磨かれる方であれば、歯を磨く空間の傍に記憶すべき情報を記した紙を貼っておいても良いかもしれません。

同様に、就寝前にお手洗いに行く方であれば、お手洗いのドアに記憶すべき情報を記した紙を貼っておいても良いかもしれません。

 

この場合、貼っておく紙に記しておく情報は、前述のように「使える形」で記しておく必要があります。

 

 

 

■04.覚えているかどうか「身体」で確認する

京大の松岡先生もご指摘されていますが、概念を正確に理解することは法解釈では非常に重要です。

同様に、概念を正確に記憶しておくことも非常に重要です。

 

学生の方の答案を拝見している思うのですが、ある概念の説明が非常に正確に為されている答案と、だいたいは正しいがやや不正確な説明しか為されていない答案とでは印象がかなり異なります。

 

正確に申し上げれば、正確な説明ができている方は答案全体の内容が堅実・的確なものであることが多く、説明がやや不正確な方はやはり答案全体の内容もやや不十分であることが多いように思います。

 

そうであれば、法的知識の記憶は正確に行う必要があります(と言っても、いわゆる論証を一言一句正確に覚えるべきと言っているわけではありません。誤解な無きよう)。

 

この観点からすると、せっかく記憶するのであれば、曖昧な記憶を排除する必要があります。

言い換えれば、「覚えた気」になっていてはいけません

 

そして、多くの人は、文章を読んだだけでは情報を正確に記憶することはできません。

 

築山先生が指摘されているように、必ず、音読したり、書いたりすることによって、自分の脳内の情報を外部に出力し、五官で確認すべきです

 

そして、この確認を元に、脳内の情報を修正し、改善していくことによって、自分の記憶はより正確になっていきます。

 

この方法は、原始的で迂遠な方法かもしれませんが、古人曰く、

 

「急がば回れ」

「学問に王道なし」

 

です。

|

« 【余談】 Interesting News : July 10. 2008 | トップページ | 【余談】 Interesting News : July 14. 2008 »

学問・資格」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
記事を拝見させていただきましたが、とてもためになりました。

ところで、知識の正確な記憶とありますが、丸暗記との違いとはなんでしょうか?
予備校でも言われたのですがよくわかりません。

ご解答お願いします。

投稿: | 2008年9月 5日 (金) 16:44

コメント、ありがとうございます。

私の文章が言葉足らずで申し訳ありません。
私が申し上げたかったことは、正確に理解して記憶する
ということです。

具体的には、記憶すべき対象の①内容の本質
(不可欠要素)を理解する、②妥当範囲を理解する、
③他との差異を理解するということが大切ではないか
と考えております。

そして、いわゆる丸暗記は、この①~③を理解
するという作業を欠いているのではないかと私は
考えておりますが、いかがでしょうか?

投稿: shoya | 2008年9月 7日 (日) 17:35

ご解答ありがとうございます。

正確に理解して記憶するですね!わかりました!

まだ自分は勉強を始めたばかりで、予備校の答練(基礎コースに付いている)を受けたのですが、全く分量が書けず、ただ重要なキーワードを並べているような感じで、どうすればいいか悩んでいたのですが解決できた気がします。

これからはしっかり記憶していきたいと思います。

ありがとうございました!!

投稿: | 2008年9月15日 (月) 01:22

この記事へのコメントは終了しました。

« 【余談】 Interesting News : July 10. 2008 | トップページ | 【余談】 Interesting News : July 14. 2008 »