【信託法】 信託法を勉強する際のお薦め書籍
現在、法学教室で東大の道垣内弘人先生が「さみしがりやの信託法」を連載されており、学生の方々の間でも信託法の勉強熱が広がっている(?)のかもしれません。
とは言え、六法や行政法に比べれば、信託法はマイナーな科目です。
そのため、例えば民法における内田貴先生の『民法I~IV』のように初学者が勉強するための定番の基本書が存在する訳ではありません。
この結果、信託法を勉強しようとする方は、いわば”手探り”状態で勉強せざるを得ない状況にあります。
そこで、今回は、信託法を勉強する際に役立つと思われる書籍――但し、私の独断と偏見に基づきます(笑)――をご紹介したいと思います。
■最初に1冊だけ読むなら
向学心に溢れ、信託法の書籍を大量に購入するのであれば別ですが、「とりあえず1冊買って勉強してみたいな」と思われるのであれば、東大の樋口範雄先生の『入門・信託と信託法』(弘文堂、平成19年)がお薦めです。
誤解しないで頂きたいのですが、向学心に溢れる方に対しても、この本はお薦めです(笑)。
むしろ、信託法を初めて学ぶのであれば、この本が今のところ最適ではないかと私は思います。
そもそも、現在の信託法の基礎はイギリスで生まれ、その後、信託法は英米法体系の国々で発展しました。
したがいまして、信託法の原理・原則は英米法に由来するものです。
樋口先生はこの英米法をご専門にされる先生でして、本書ではその該博な知識を基にして、信託法の基本的な考え方を非常に分かりやすい文章で書かれています。
そして、本書の特徴は、この2点にあります。
即ち、本書の特徴は、
(1)英米法と比較しつつ、わが国の信託法の原理・原則を説明している点
(2)非常に分かりやすい文章で書かれている点
にあります。
まず、特徴(1)は初学者にとって大変好ましいものだと思われます。
なぜならば、初学者段階において、まず理解すべきは当該法律の原理・原則だからです。この原理・原則の正確な理解無くして、同法の的確な応用は不可能です。
次に、特徴(2)が初学者に好ましいことは言うまでもありません。
本書は帯によれば、東大の樋口先生の講義をベースにしたもの(?)のようでして、そもそものベースが初めて信託法を学ぶ学生の方を対象とされています。そのため、文章は平易で、かつ論理的なものになっています。
ところで、どの法分野でも同じことだと思いますが、現在の法制度という言わば”結論”だけを学ぶ作業は砂を噛むような行為であり、率直に申し上げて面白くありませんし、記憶し辛いものです。
しかし、本書では、信託という制度がどうして発生し発展して行ったかという英米の歴史から説明されており(と言っても、歴史に関する記述は必要最低限の分量に圧縮してあり、ダラダラと書き連ねてある訳ではありません)、信託法の理解が楽しく、また記憶しやすいものになっています。
とは言え、本書は題名にもありますように、あくまで入門書でしかありません。
そのため、現行信託法の内容に関する情報量はそれ程多いものではありません。
これは、原理・原則を理解させるという入門書の役割を実現したが故の結果であり、決して問題点ではありません(一般に、「何を書くべきであり」・「何を書くべきでないか」という選択を適切に実行し得る方は大変な実力者であり、樋口先生はその意味で非常に優れています)。
ですが、信託法を本格的に学ぶのであれば、別の書籍を読む必要があります。
■次に読むなら
『入門・信託と信託法』の次に読むのであれば、以下の3冊がお薦めです。
道垣内弘人『信託法入門』(日本経済新聞出版社、日経文庫1117、2007年)
井上聡『信託の仕組み』(日本経済新聞出版社、日経文庫1115、2007年)
大橋和彦『証券化の知識』(日本経済新聞出版社、日経文庫837、2001年)
いずれも日本経済新聞出版社から出されている新書です。
道垣内先生の『信託法入門』は、道垣内先生らしい分かりやすい文章で現行信託法の制度を説明しています。
ただ、情報量に比して紙幅が狭かったせいか、いつもの道垣内先生の軽妙洒脱さは影を潜めています(軽妙洒脱さを求められるのであれば、法学教室の連載の方が良いです(^^;))。誤解を恐れずに言えば、本書の記述は的確かつ分かりやすい文章ではありますが、若干淡々としている嫌いがあります。
その為、特に強い動機に裏打ちされていない全くの初学者の方が本書から勉強を始められると、中には挫折してしまう方もおられるかもしれません。
ですが、既に樋口先生の『入門・信託と信託法』を読了しているならば、原理・原則は理解できているはずなので、『信託法入門』も比較的簡単に読み進められるのではないかと思います。
『信託の仕組み』は、長島・大野・常松法律事務所の井上先生が書かれたものであり、信託法が実際の社会でどのように用いられているかが分かりやすく説明されています。抽象的な知識を立体化するのに役立つと思います。
もっとも、当たり前のことですが、本書も信託法に関する書籍であるため、道垣内先生の『信託法入門』と記述が重複する部分もあります。
ですが、その部分は学者も実務家も必要と判断した情報ということですから、読み飛ばすのではなく、むしろ、じっくりと読まれると信託法の理解が堅実なものになるのではないかと思います。
一橋の大橋先生が書かれた『証券化の知識』は信託法に関する書籍ではありません。
ですが、信託法と証券化は密接に関連していますし、信託法を学ばれる学生の方は証券化にあまり詳しくない方もおられるのではないかと思い、紹介させて頂きました(信託法の書籍では、証券化の知識を前提とした記述が登場することが少なくありません)。
本書は証券化の仕組みを――新書では珍しく――図を駆使して説明しており、平易な記述と相俟って、非常に分かりやすい証券化の入門書となっています。
そして、現在では証券化は金融の世界では常識レベルの情報ですから、信託法に興味の無い方にも本書はお薦めです。
■更に本格的に勉強するなら
更に本格的に勉強するのであれば、以下の2冊がお薦めです。
村松秀樹ほか『概説新信託法』(金融財政事情研究会、2008年)
寺本昌広『逐条解説新しい信託法 〔補訂版〕』(商事法務、2008年)
と言いましても、信託法に関する書籍は沢山存在していますので、他にも優れたものはございます。特にご自身の勉強目的によっては上記書籍はお役に立たない場合もあるかと思います。
したがいまして、ご購入の際には書籍で立ち読みした上で決められても良いかと思います。
■リンク
いとう Diary ~ academic and private:新しい信託法の入門書2冊
http://blog.livedoor.jp/assam_uva/archives/51213336.html
伊藤先生が、上記の道垣内先生の『信託法入門』と樋口先生の『入門・信託と信託法』について紹介されています。
| 固定リンク
「学問・資格」カテゴリの記事
- 【民法】 権利者からの取得が明らかな場合の即時取得(2010.02.20)
- 【民訴・民裁】 処分証書に関する覚書(2009.12.03)
- 【余談】 修習で役立つ書籍・刑事編(2009.11.30)
- 【余談】 修習に役立つ書籍・民事編(2009.11.28)
- 【憲法】 処分に関する違憲審査基準について・その2(2009.02.18)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント