【余談】 修習に役立つ書籍・民事編
※11月29日加筆・訂正しました。
私の親友(大学のクラスメート)が,昨日から新63期司法修習生として修習生活を開始いたしました。
何はともあれ,おめでとう>■■
彼は,一旦,企業に就職し,営業で文字通りのトップに立つなど非常に活躍していましたが,一念発起して法科大学院に進学しました(学部時代に彼がちゃんと法律を学んでいた記憶は正直ありません(笑))。
とは言え,元々優秀な人間でしたし,何より精神力が強靭でしたので,法科大学院を主席で卒業し,新司法試験にも非常に優秀な成績で合格しました。
そんな彼は任官を希望しておりまして,私に「修習に際してはどういう書籍で勉強すればいいのか?」と聞いてきました。
と言う訳で,友人・知人・後輩から色々と情報を集めたところ,下記の書籍が一般的にお薦めできるのではないか,という結論に達しました。修習生の方や,法科大学院生の方のお役に立てば幸いです。
また,「これもお薦め!」という情報があれば,是非ご教示くださいませ。
■民事編
【要件事実系】
大島眞一『完全講義 民事裁判実務の基礎』(民事法研究会,平成21年)
今年出版された書籍で,1冊で要件事実と事実認定をカバーしています。著者は大阪地裁の部総括判事です。
著者の大島判事は,法科大学院の教授を務められていました。また,本書を執筆するに際しては若手裁判官や法科大学院を修了した修習生の協力を得られたそうです。そのため,本書では,初学者が間違えやすい点について丁寧に説明されています。記述も平易で分かりやすく,1冊だけ要件事実系の書籍を購入するのであれば,私は本書をお薦めいたします。
また,本書は本文では原則として研修所の見解をベースにした説明がなされています。
そもそも,研修所の見解や概念には独特のものが少なくなく,研究者のみならず実務家からしても違和感がある見解があるのですが,それに対する批判等は全て注釈やコメントといった形で別個に示されています。
その意味で任官志望者の方も安心して使える書籍と言えるのではないでしょうか。
内容は,要件事実の部分と事実認定の部分に大きく分かれており,要件事実の部分はケーススタディ形式になっています。と言っても,各ケースの分量は少ないですので(敬三先生の基本書や佐久間先生の基本書のケースのような感じです),起案対策用の問題集にはあまり向いていないと思います。起案対策用としては,岡口判事の『要件事実問題集』が有益ですが,同書は一部(一部だけです)の解説がかなり独自で,研修所の起案で書くのは危険な説明もあります(繰り返しますが,そのような記述は一部だけで,全体としては有益です)。
村田渉ほか『要件事実論30講 第2版』(弘文堂,2009年)
恐らく,修習生のみならず,法科大学院生の方の多くも使用されているであろうテキストです。現在の要件事実論系のテキストでは,本書が最もスタンダードなのではないでしょうか。
本書の特徴は,研究者と研修所教官を勤められた判事が共同で執筆しているという点です。
そのため,本書の内容は,現在の研修所の民事裁判教官室とほぼ一致していると思われます(研究者担当部分を除く)。
ですから,修習という観点からすれば,本書は要件事実系のテキストの中では最も信頼性が高いと言えます。
内容は,要件事実に徹しており,言い分方式のケーススタディ形式になっています。問題のレベルは初学者~中級者向けです。と言っても,現在の修習では極端に複雑な要件事実論の問題は出題されないようですので,本書のレベルで十分足りると思います。
岡口基一『要件事実マニュアル 上・下』(ぎょうせい,第2版,平成19年)
賛否両論ある書籍ですが(岡口判事は時々要件事実で独自の見解を唱えられるので),調べ物の際は間違いなく便利です。索引が無いのが玉に瑕ですが,辞書用として購入されるのが良いかと。
【事実認定系】
司法研修所編『民事訴訟における事実認定』(法曹会,平成19年)
本書は,司法研究報告として,全国から選ばれた5名の判事が行った事実認定の研究をまとめた書籍です。事実認定の書籍を1冊だけ購入するのであれば,本書が良いかと思います。
本書の内容は主として理論の説明,事例紹介,高裁判事に対するインタビュー集で構成されています。個人的にはインタビュー集を興味深く拝読しました。
本書を読んでも直ちに事実認定力が上がったり起案の点数が上がったりするわけではありませんが(笑),本書を精読すれば,事実認定がどのような論理構造で為されているか,裁判官はどのような点に着目しているのか,ということについて基本的な視点を取得できると思わけます。
田中豊『事実認定の考え方と実務』(民事法研究会,平成20年)
本書は,最高裁調査官も務められた元裁判官(そして元司法試験考査委員)で,現在は法科大学院の教授も務められている田中先生が書かれた書籍です。
本書は,『月報司法書士』2006年4月号から2007年4月号に連載された記事に加筆されたものです。ですから,元々は司法書士を対象にしたものでしたが,修習生にも適切な内容だと思います。
本書の内容は,総論部分と各論部分に分かれており,総論部分では事実認定の基礎理論の説明がなされています。その上で,各論部分では実際に問題になった事例(最高裁と下級審で事実認定が異なった事例)が幾つか取り上げられており,かなり丁寧な説明が為されています。
取り上げられている事例の数が少ないので汎用性はそれ程高くありませんが,丁寧な説明が為されていますので,事実認定を鍛錬したい方には特にお薦めです。
加藤新太郎編『民事事実認定と立証活動 第I巻・第II巻』(判例タイムズ社,2009年)
本書は,高名な加藤新太郎判事を中心にした座談会の内容をまとめたものです。座談会のメンバーは司法研修所教官を経験したことのある著名な実務家がレギュラーメンバーで,テーマ毎にゲストスピーカーが招かれています。
座談会の内容をまとめたものですので,上記2冊に比べれば体系性は劣りますが,裁判官の着眼点や各裁判官が経験した印象的な事例などが豊富に紹介されています。特に事例の数は上記2冊より随分多いです。
座談会のテーマは,書証,報告文書,検証・鑑定,契約類型に即した事実認定など多岐にわたっています。
任官志望者や事実認定を鍛えたい方であれば,買って損は無いと思います。個人的にはとっても面白く,好きな書籍です。
特に書評は致しませんが,以上の書籍の他に,下記の書籍も有益です。配属部や弁護修習先によっては,下記書籍が役立つことも少なくないと思います。
裁判所職員総合研修所監修 『民事訴訟法講義案(再訂版)』(司法協会,2009年)
東京地裁保全研究会『民事保全の実務〔新版増補〕上・下』(金融財政事情研究会,2005年)
東京地方裁判所民事執行センター実務研究会『民事執行の実務 債権執行編[第2版] 上・下』(金融財政事情研究会,2007年)
東京地方裁判所民事執行センター実務研究会『民事執行の実務 不動産執行編[第2版] 上・下』(金融財政事情研究会,2007年)
※但し,保全・執行は地裁毎に取扱いが大きく違いますので,必ずしも上記書籍通りに実務が運用されているわけではありません。但し,上記書籍の影響力は大きいです。
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コメント
初めまして。63期修習生です。
要件事実問題集の独自の見解とは何問目のことなのか教えていただければありがたいのですが。
投稿: | 2009年11月30日 (月) 09:33
愛知県内のとあるロー生です。
刑事編も楽しみにしています。
投稿: ヤナセ | 2009年11月30日 (月) 09:56
はじめまして、新62期の者です。
大島先生の本はわかりやすくていいですが、事実認定のうち処分証書のところの説明が、起案との関係では誤解を招きやすくなっているので注意が必要だと思います。
私が読んでいて気になったので(結構重要な部分なので)投稿させていただきました。
投稿: 新62 | 2009年11月30日 (月) 10:57
>63期修習生さん
コメントありがとうございます。私が持っているのは初版なのでひょっとしたら第2版では修正されているのかもしれませんが,例えば,第15問の参考答案の相殺の抗弁の部分は外側説に立つのであれば,主張が不足しているのではないかと思われます。
つまり,代物弁済も併せて主張される必要があるのではないかと思います。
尚,『要件事実問題集』は全体としては良質な問題集ですので,個人的には良書だと思っています。
ちなみに,仄聞する限りでは,任官志望者が研修所の見解に合わせて作成した要件事実問題集・解答例というデータが修習生の方々の間では存在するそうです。
>ヤナセさん
コメントありがとうございます。可及的速やかに作成したいと考えております。
拙い内容ですが,お役に立てば望外の喜びです。
>新62さん
コメントありがとうございます。
そして,2回試験お疲れ様でした。
大島判事の書籍の件は,ひょっとすると,処分証書の実質的証拠力の部分の話でしょうか?
お手隙の時間にでもご教示いただければ幸いです。
投稿: shoya | 2009年11月30日 (月) 17:00
私の勘違いかもしれないのでその場合はでしゃばってしまったことをお許しください。
大島先生は処分証書を「意思表示がその文書によってされているもの」と定義されておりますが,研修所の講義では,「意思表示その他の法律行為が記載された文書」と定義されていました。
教官に確認したところ,後者で考えるように,とのことです(両説あるが,研修所の起案では後者で考えること,ということです)。
一見あまり変わらないような定義にみえますが,大島先生の定義だと,厳密に当該文書において意思表示をしたのでなければ当該文書は処分証書にあたらないことになります(現に525pで,「口頭で売買契約を締結し,後日,証拠を残す趣旨で売買契約書を作成した場合は,その売買契約書は報告文書である」とされています。)。
他方,後者であれば,誤解をおそれずにいえば,意思表示その他の法律行為をしたように「みえる」文書も処分証書と考えることになります。
私が「起案との関係で」誤解しやすいと申し上げましたのは,以下のことを意味しています。すなわち,大島先生が用いられている定義に依って事実認定の起案で記録を検討した結果,当初の検討の段階で処分証書にあたりそうだと判断した文書が,実は当該文書そのものをもって意思表示がなされたというような文書ではなかった場合に,判断枠組みは処分証書存在型にならなくなるのではないか,という疑問が生じうるということです。
この点について教官は,そうではなく,その場合も処分証書にあたると考えた上で,実質的証拠力の問題として考えればよいとおっしゃっていました。「これから」争点たる要証事実の有無を検証しようという段階において,そのとっかかりとしての判断枠組みを問うているのであるから,判断し終わった後,結果的に処分証書型ではなかったいうのはナンセンスであるとのことです。
細かい問題かもしれませんが,大島先生は両定義を併記されていないので混乱を生じる人もいるかなと思い,指摘してみた次第です。
平凡な修習生ですので単なる勘違いかもしれませんが,その場合はお許しください。
長々と駄文を重ねてしまい,大変失礼いたしました。
投稿: 新62 | 2009年12月 1日 (火) 19:52
新62さん、丁寧かつ詳細なコメント、ありがとうございます。
私は全然気づきませんでしたが、確かにご指摘の点は、仰るとおり、研修所の独自のルールとも相俟って誤解される余地がある点ですね。極めて的確なご指摘だと思います。
新62さんが十分にご説明されているので、私の説明は屋上屋だと思いますが、当ブログを御覧いただいている方々のために別記事で改めて説明させていただくことに致しました。
もし私の説明に不備等が存在する場合、お手隙の時間にでもその旨をご指摘いただければ幸いに存じます。
投稿: shoya | 2009年12月 3日 (木) 01:41